なぜ、中国は北朝鮮への態度を変えたのか?

田原 総一朗

いま、世界の最大の関心事は、あることに集まっている。それは、アメリカが、ほんとうに北朝鮮に武力行使をするのか。そして、するとしたらいつなのか、だ。

もしアメリカが北朝鮮を攻撃すれば、当然、北朝鮮は韓国、日本を標的にして反撃してくるだろう。そんな状況のなかで、中国が北朝鮮に対する態度を変えているという。

中国は、北朝鮮にとって、もっとも影響力のある国だ。北朝鮮の貿易の大半は中国相手だ。もし、中国が原油の輸出を止めたら、北朝鮮は一気に窮地に陥ることになる。

しかし、これまで中国は、北朝鮮を決定的に苦しめることをしなかった。アメリカのトランプ大統領は、中国に対して、北朝鮮への厳しい態度を期待してきた。だが、中国は、その期待にことごとく応えてこなかったのだ。

そもそも国連の北朝鮮への制裁決議では、決定的な項目が入ると、中国とロシアは拒否権を発動した。もっとも影響力がある中国が、北朝鮮に引導を渡さなかったのはなぜか。

なぜならばそれは、中国にとって北朝鮮は、なくてはならない国だからだ。

朝鮮半島が韓国によって統一されることは、中国にとって許しがたいことなのだ。韓国が半島を統一すれば、北朝鮮は民主主義国家になる。これは、中国にとって受け入れがたいことなのだ。だからこそ韓国との間にある、北朝鮮という存在が、中国にとって重要なのだ。

そんな中国が、最近、北朝鮮への態度を変えている。これは、いったいどういうことか。

まず、北朝鮮との国境付近に、中国は難民収容所を5カ所も建設しているという。これまで中国は、北朝鮮のレジームが壊れ、難民が流れ込むことを恐れていた。しかし、巨大な収容所を建てることで、「難民が来ても平気だぞ」と、北朝鮮に向けてアピールしているのだ。

もうひとつ、これは中国の政権中枢に極めて近い人物から聞いた話だ。昨年11月、習近平主席は、トランプ大統領との会談を終えたあと、北朝鮮へ特使を送った。ところが、特使は金正恩に会うことができなかったのだ。

これは、特使の格が低すぎたので、金正恩が怒ったからだと言われている。各国メディアは、金正恩を甘く見た習主席の失敗だと報じた。

しかし、実は習主席は、どんな特使を送っても、金正恩は会わないことは織り込み済みだったという。であれば、格上の部下を送って、メンツをつぶされるよりも、あらかじめ格下の人間を送ったのだというのだ。つまり、中国は北朝鮮との対話を求めていないのだ。

去年まで、中国は、北朝鮮の核保有を許容するのではないかと言われていた。

しかし、もし北朝鮮が核を持てば、韓国もまた持つことになるだろう。そして、ひょっとして日本も持つかもしれない。

そんな事態は、中国にとって、断じてあってはならないはずだ。となれば、アメリカと中国は、同じ方向性で話し合える可能性が出てくる。そして、その仲介役、触媒になれる可能性があるのは、日本しかない、と僕は思う。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2018年1月26日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。