米国政府はこれまで為替政策に関しては一般的に発言を控えるか、「強いドルは国益に適う」として、表面上はドル高を歓迎するかのような発言をしていた。この発言は1995年頃に当時のルービン財務長官が言い出したもののようで、それがこれまで主に基軸通貨を有する米国の財務長官の発言として受け継がれてきた。
ところが24日にムニューシン財務長官は、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)の記者会見で、「明らかにドル安はわれわれにとり良いことだ。貿易や各種機会に関わるからだ」と述べ、ドル安を歓迎する姿勢を示した(ロイター)。
たしかに、1985年のプラザ合意などを見るまでもなく、米国としては本音を言えばドル安歓迎というところではあろう。この発言を受けて、外為市場ではドルが全面安の展開となった。
ムニューシン財務長官はこれに加えて「長期的には強いドルは米国経済力を映す。ドルは主たる準備通貨である」とバランスを取る発言もしていた。さらにロス商務長官は、このムニューシン財務長官のドル安容認とも取れる発言について、長年にわたる強いドル政策の転換を表明したわけではないと述べ、火消しに走った格好となった。しかし、市場は今回のムニューシン財務長官による発言はドル安容認と取らざるを得なかった。
トランプ政権が米国第一主義を取っているとは言っても、「「米国第一は各国と協力しないという意味ではない」(ムニューシン財務長官)。つまり、為替政策に関しては相手国のこともことも考慮する必要がある。これについてロス商務長官は、貿易相手国の不適切な行動が、米国の対応を引き起こしたと主張した。ロス氏は、多くの国は、自由貿易を語っているが、実は非常に保護主義的な行動をとっている、との見方を示した(ロイター)。
このロス長官の発言もトランプ政権の意向を反映したものと言えた。なかなか言えなかった本音がトランプ大統領も出席するダボス会議で、財務長官や商務長官から出てきたことは注意すべきで、トランプ大統領からも同様の趣旨の発言が出てくることも予想された。
ところがである。トランプ大統領はダボス会議ではなく、米CMBCテレビのインタビューに答えるかたちで、「米国経済は非常に力強い。絶好調だ。それゆえドルはどんどん強くなるだろう。最終的に私は強いドルを好む」と答えたそうである。その前にこのインタビューでTPP交渉の再検討も示唆していたのである。
ムニューシン財務長官によるドル安容認発言の真意は、トランプ大統領の露払いとの見方もあり、その可能性は否定できなかった。ルービン時代から続いていた形式だけの表明は止めて、本音を出してきたとも言えるが、これは相手国、つまり日本などにとっては難しい対応を迫られることになる。つまり、円高要因となりうるような行動が取りづらくなる。
ところが、トランプ大統領は自らの発言でムニューシン財務長官によるドル安容認発言を否定した。ドラギECB総裁がユーロは誰かのコメントのせいで上昇した面もあると発言したり、IMFのラガルド専務理事がムニューシン財務長官に説明を求められたりしたとも伝えられていたが、何らかの力が働いてのトランプ大統領の発言であった可能性もあるが。よくわからない。これがトランプ政権のやり方なのであろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。