“スリーパーセル” 読売が10年前に阪神の被災地から武器発見の報道

2018年02月14日 15:00

フジテレビ「ワイドナショー」より

国際政治学者の三浦瑠麗氏のテレビでの発言で注目された潜伏工作員「スリーパーセル」について、読売新聞が2007年1月19日付朝刊で記事を掲載していた。

当時、前年10月に北朝鮮が核実験に初めて成功し、日本の新たな脅威として重大視されるようになり、北の核ミサイル危機シミュレーションも交えた大型連載シリーズ「核の脅威」を開始。その第1部の3日目の記事「20XX年北朝鮮が…(3)重要施設を警備せよ」に、政府関係者からの情報として衝撃的な内容が報じられている(太字は筆者)。

日本に長年潜入中の休眠工作員(スリーパー)もいる。政府関係者によると、阪神大震災の時、ある被災地の瓦礫(がれき)から、工作員のものと見られる迫撃砲などの武器が発見されたという。

連載の当該記事。中央は、日銀福井総裁(当時)の利上げ見送り報道(読売新聞2007年1月縮刷版より)

恥ずかしいことに、掲載当時、私は社会部の記者だったが、この記事のことは記憶に残っていない。何かの取材で忙殺されていて精読しきれなかったのだろう。

しかし偶然のことだが、私も昨年、ある政界関係者(議員ではない)から同様の話を聞かされたことがあった。今回は差し控えるが、具体的な地区名も聞いた。同じ現場かもしれない。

近年は公安関係者との交流が途絶え気味だった上に、正直なところ、そもそも裏が取りようもない話に半信半疑でいた。そんな折に、今回の三浦氏の発言の炎上があったことで阪神の被災地での“裏情報”を思い出し、関連記事を調べていく中で、読売新聞の当該記事の存在に気づいた。

連載は長期シリーズで、この月の終了時点では担当記者の署名が確認できなかったが(すみません今回は時間がなく)、おそらく政治部と国際部の記者たちによる取材だったとみられる。ちなみに、読売新聞社会部は産経新聞と並んで公安取材は伝統的に強い。私が社会部に所属していた頃は、親子2代で公安担当という優秀な先輩記者もいらした。

もちろん、政府関係者のコメントだからといって事実を確定的に語るには物騒な話だ。取材した記者も直接現認できたわけではなかろう。しかし、麻生幾氏のノンフィクション小説で飛び出す様な“大胆なエピソード”を、全国紙で掲載するからには、それなりに信頼できるソースだったことは推認できる。

記事の当該部分(赤線は筆者)

衝撃的な内容の割に、ストレートニュースではなく、連載記事の中の一部分での記述だったためか、社会的に見過ごされてしまったのだろう。もし訂正や削除があった場合は縮刷版にその旨が掲載されるが、筆者が縮刷版でこの記事の存在を最終確認したところ、訂正の記述が見当たらず、10年経った今も、この記事は報道機関としての「公式見解」といえる。

三浦発言は軽率だが、冷静でリアルな安全保障の議論は必須だ

ファクトとしては読売が過去に「スリーパーセル」の報道をしていたことだけだが、ここ何日かの騒動をみていると、言論封殺にも似た空気が、冷静な事実検証をも阻むような恐れを感じる。

三浦氏の発言を巡っては、リベラル論客などから在日コリアンへの差別論などと結びつけての批判・炎上が噴出している。また、リベラル論客ではない(はずと私は思う)が、文筆家の古谷経衡氏は、公安当局の報告書に「スリーパーセル」の記述がなかったことから、三浦発言を「妄想」と切り捨てている

古谷氏は筆者とテレビで共演したことがあり、ネット右翼の属性調査などは一目置いてきた。しかし、彼のFacebookにもコメントしたように、申し訳ないが、この件は公安の公文書に掲載されていないからといって、スリーパーセルの存在を否定的に語るのは、あまりに楽観的すぎると言わざるを得ない。安保・外交政策、軍事に精通した、筆者の複数の友人たちも彼の論考には総じて批判的だった。

一方で、騒動を起こした三浦氏に対しては発言が「軽率」だったと言わざるを得ない。次の渡瀬さんのツイートにもあるように、特に大阪という地名を根拠を示さずに断定的に語ったことは拙かった。

しかし、彼女がテレビ放映後に発言の真意などを補足したブログでも指摘していたように、潜伏工作員の存在について事実検証も含めて議論することすらタブー視するようでは、建設的な安全保障の議論ができなくなる恐れがある。

同ブログ、および先日、池田信夫との対談動画でも取り上げられているが、国連北朝鮮制裁委員会・専門パネルの元メンバー、古川勝久氏の近著『北朝鮮  核の資金源』(新潮社)では、北朝鮮が制裁をかいくぐって密輸をするための非合法ネットワークが日本国内でも構築されている近年の実態が生々しく明らかにされている。この国の言論・メディア空間が相変わらずの「平和ボケ」になっているようにしか思えない、「スリーパーセル」騒動だった。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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