文大統領の南北首脳会談前の心構え

2018年03月07日 07:30

トランプ米大統領と電話会談する文在寅大統領(2018年3月1日、韓国大統領府公式サイトから)

ソウルからの情報によると、南北首脳会談が4月末に板門店で開催されることになったという。韓国の文在寅大統領が派遣した特使団(団長・鄭義溶大統領府国家安保室長)が5日、平壌を訪問し、金正恩朝鮮労働党委員長と44時間を超える長時間の会談をし、南北首脳会談を早急に実現させることでトントンと話が進んだという。

金正恩氏が韓国の特使団と直接会談し、夕食を共にしたことは初めてだ。金正恩氏にとってもどのような理由があるにせよ、南北首脳会談を早く実現させたい意向の表れと受け取られている。平昌冬季五輪大会後、全てはベルトコンベアー式に、南北首脳会談がセッテイングされたわけだ。

数億ドルのプレゼントをカバンに入れて訪朝した故金大中氏(大統領在任1998~2003年)を思い出すまでもなく、歴代の韓国大統領は訪朝し、北の最高指導者と会談することをその政権の大きな目標としたが、政治の恩師、故盧武鉉大統領(在位2003~08年)に倣い、文大統領にも南北首脳会談の日が近づいてきたわけだ。

もちろん、文大統領の首脳会談の目標は単に金正恩氏と会談することではなく、朝鮮半島の平和実現、南北再統一、北の非核化という大きな課題がある。ひょっとしたら、金正恩氏に米朝対話を促すことも重要課題かもしれない。歴代の大統領は程度の差こそあれ、そのような大きなテーマを掲げて首脳会談に臨んだ。

その結果はどうだったか。金大中氏も盧武鉉氏も生前、南北再統一を目にすることができなかった。非核化どころか、数回の核実験を目撃する羽目となったことは歴史的事実だ。すなわち、韓国大統領の南北首脳会談は過去、成果をもたらすどころか、朝鮮半島の緊張を高める結果ともなったのだ。

文大統領は口癖のように「歴史から学べ」と日本海の方に向かって叫ぶが、今こそ自身が韓国の歴史を学ぶ時ではないだろうか。なぜ、南北首脳会談は成果をもたらさず、朝鮮半島の緊張を高めたかを真剣に考えていただきたい。

南北首脳会談開催のタイミングが悪かったのか、それとも韓国大統領の首脳会談への志が少々間違っていたのだろうか。いろいろ考えられるが、当方はやはり後者だと言わざるを得ないのだ。自身の名誉、野心を優先し、国の指導者として国民、民族を思う志が十分ではなかったのではないか。

政治家は国の命運を決める重要な役割を持っている。政治家の志が高ければ、困難も生じるが国は栄える。もちろん、志だけでは十分ではない。羊のように素直なだけでは政治という荒海を渡りきることはできないことはどの世でも同じだ。時には狡猾であることも必要だろう。

文大統領はカトリック信者だ。朝鮮半島の仲介をバチカンに打診している(「文大統領、法王に『南北の仲介』要請」2017年5月28日参考)。政治問題の解決のために宗教界の支援を要請することは間違っていないが、首尾一貫性に欠ける。そのことを強く感じたのは、日本の植民地時代に起きた民族独立運動「3.1運動」の記念式典演説だ。日本に対し、「加害者が『終わった』などと言ってはならない」と慰安婦問題を蒸し返して、日本を批判した。

キリスト信者ならば、相手を加害者、自身は被害者という枠組みで考えてはならない。自身は常に正しく、相手の落ち度だけを糾弾する姿勢はイエスが最も嫌ったものだ。

新約聖書「ルカによる福音書」第6章39節から42節の聖句は有名だ。「兄弟の目にある塵を見ながら、自分の目にある梁を認めないのか」。これはイエスの教えのエッセンスだ。

ベトナム戦争で派遣された韓国兵士のベトナム人女性への性的蛮行や「ライダイハン(韓国兵とベトナム人女性の間で生まれた子供たち)」問題を挙げるまでもない。韓国にも過去、多くの過失があったのだ(「文大統領の『心込めた謝罪』とは何?」2018年1月11日参考)。

世界的宗教指導者・故文鮮明師が1991年11月末、北を訪問し、故金日成主席と会談したことがあった。その場で、文師は「金主席、主体思想は間違っています」と単刀直入に表明し、朝鮮半島に対する神の願いについて説明したという。

独裁者・金日成の目の前で「あなたが提示した主体思想は間違っています」といえば、通常の場合、命はないだろう。文師の側近たちは「ひょっとしたら、韓国に戻れなくなるかもしれないと震えあがった」ということを読んだことがある。文師ら訪朝団は無事、帰国したが、故金主席は後日、側近たちに「あいつ(文師)は大した男だ」と文師を評価したという話を伝え聞いた。

北朝鮮で飢え苦しむ多くの国民がいる。多数のキリスト信者が弾圧され、収容所生活を強いられている。彼らは祈ることすらできない。文大統領は金正恩委員長との会談では、キリスト者の一人として兄弟姉妹(信者たち)の解放の為に一肌脱いでほしい(「北のクリスチャンの『祈り方』」2015年9月21日参考)。

南北首脳会談を政治パフォーマンスの舞台で終わらせてはならない。実質的な南北再統一について胸襟を開いた話をしてほしい。相互の信頼関係がなければ、非核化問題は絶対解決しないだろう。過去の南北首脳会談の蹉跌を繰り返してはならない(「北の非核化は金王朝崩壊後に実現」2018年2月27日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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