省庁再々編構想:安倍政権、窮余の大逆転策に現実味は?

2018年04月08日 06:00

きのう(7日)の日経新聞が朝刊一面トップで、自民党内で中央省庁の再々編構想が急浮上してきたと報じた。

省庁の再々編案 浮上  自民、「森友」など不祥事相次ぎ 新たな形の「政と官」問う日本経済新聞

日経の事前仕込みの識者談話で日本総研の湯元健治副理事長が述べているように「数々の不祥事が取り沙汰されていて、国民の目をそらすための議論」と見る向きもあろう。そもそも、財務省の問題で支持率を大きく損ねた安倍政権に、この難事業をやりきる「政治的体力」がこの先残っているのか懐疑的な声は根強そうだ。実際、前回の省庁再編を仕切った橋本政権は、各省庁や族議員たちの激烈な抵抗に直面した。

ブラフか?ホンキか?このタイミングでの記事を読み解く

湯元氏のような見立てをする人は、これが日経の紙面を使った官邸のブラフ、すなわち造反分子が急増中の霞が関や、総裁選に向けてうるさくなり始めている自民党内へのけん制効果の可能性を強く考えているといえる。もちろん、そうした広報対策上の思惑もあるのだろうが、私は存外、安倍首相は「本気」で腹を括ったのではないかとも感じる。

以前も書いたように厚労省については、再編の必要性はすでに党内でも小泉小委員会で検討され、現実味はそれなりにある。安倍首相が厚労省再編をすることが望ましいとは感じていたが、あれは財務省の改ざん問題の前のことで、厚労省を含めた霞が関全般を巻き込む大仕掛けを、このタイミングで匂わせるというのはたしかに唐突感がある。だが、裏を返せば、本気で局面の打開をしたいからこそ電撃的に打ち出してきたとも言えるのではないか。

これも繰り返しになるが、二次政権以降の安倍首相は政敵をつぶすための“スイッチ”が入ると、とことんやりぬくところがある。すなわち、時にはリベラルな経済社会政策を取り入れて野党のマーケットを蹂躙する柔軟なしたたかさがあり、あるいは、メディアと対立的になると電波改革のような難題に強硬に挑んできた(ように見える)。

加計学園問題の文科省、裁量労働制のデータ問題の厚労省ときて、文書改ざんの財務省に日報問題の防衛省・自衛隊。ここまで「官」の側からコケにされたとなると、政権の総仕上げとして「大掃除」と「大改装」に残りの政治的大目標を定めつつあるのではないか。実際、憲法改正で自衛隊を明文化しても実態の追認にすぎないが、中央省庁の大再編となれば2020年代以降の政治行政に実効性のある変化が出てくる。若い頃と違い、いまの安倍首相は「名を捨てて実を取る」傾向が強く、改憲と同等に統治改革の意義を見出しはじめてもおかしくはない。

日経に「書かせた」とすればなぜなのか?

もうひとつ、元新聞記者の目からみて、首相・官邸の「本気」度を感じるのは、話題を打ち上げたのが日経だったという点だ。20年に一度クラスの政局アジェンダをリークするのであれば、部数や規模、社会的影響力などから朝日新聞、読売新聞、NHKの3社がまず挙げられる。しかし目下、朝日と政権は命がけの“戦争中”。次に読売だが、過去にも衆議院解散の流れをいち早く報じるなど政局の節目で報じ、政権を支持してきたことが多いことを考えれば、本来は順当な位置にあるはずだ。ところが放送改革をめぐって、こちらも政権との関係はギクシャクしている。NHKは、首相と距離が近いとされてきた政治部の敏腕女性記者もいるので第3の選択肢になり得るが、NHKではなく、日経がこれを書いてきたことが興味深い。

これだけの政局アジェンダを一面で書くとなると、官邸と記者側の探り合い、そして記者と編集局中枢の社内調整が相当繰り広げられてきたとみるべきだ。読売や産経のように政権への肩入れを感じさせるほどではないものの、省庁再編の時代的意義については日経も取材の立場として“賛同”したからこそ、世の中への打ち出しへ勝負に出たように思える。

実は、いまの日経には自民党内でひときわ一目置かれている記者がいる。政と官の関係、統治のあり方を政治の現場視点で知り尽くす清水真人編集委員だ。アゴラでも年明けに池田信夫が書評したが、その著書『平成デモクラシー』は、若手議員たちがバイブルのように参考にしている(筆者も精読している)。3月中旬には小泉進次郎氏らが新たに始めた「2020年以降の経済社会構想会議」の第2回会合のゲスト講師にも招かれ、若手議員たちがブログなどで絶賛している。

もし、官邸が発信源となるメディアを選ぶとなれば、一社だけに先に書かせるとすれば、ガバナンス改革に造詣が深い記者がいることは判断材料の一つになってもおかしくはない。

平成デモクラシー史 (ちくま新書)
清水 真人
筑摩書房
2018-01-10

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新アジェンダ設定で広がる選択肢

突如浮上した中央省庁の再々編構想だが、もちろん森友問題の検察捜査で新たな事実が浮上するといった、政権の危機が再燃する可能性もある。しかし、憲法改正とセットにもでき得る大きなアジェンダを打ち出したことで、安倍首相にとっては政局の選択肢は広がる。もし9月の総裁選を乗り切り、スキャンダルによる致命傷さえなければの話だが、来年夏に衆参同日選をやって憲法改正の国民投票に弾みをつけるという筋書きもある。

さすがに衆院選・参院選・国民投票の“トリプル選挙”はリスクが大きすぎるが、野党が戦後政治史でもダントツに弱体化している中では、安倍政権が大胆な逆襲策を打ち出しやすい。はたして、官邸の思惑通りに事が進むのだろうか。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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