書評「銀行員はどう生きるか」

城 繁幸
銀行員はどう生きるか (講談社現代新書)
浪川 攻
講談社
2018-04-19

 

最近のメガバンクの動きを見て以下のような疑問を抱いている人は、筆者を含めて多いのではないか。

・なぜ、昨年後半に唐突に3メガ足並みをそろえて人員削減を決定したのか
・それを受けて若手が流出しはじめたのはなぜか
・メガバンクはどこに向かうのか

上記の疑問をクリアに解説してくれるのが本書だ。

フィンテック企業による本業の侵食、日銀の超低金利政策等で国内事業がジリ貧に陥っていたメガバンクだが、その分、国際業務に注力することでなんとか全体の落ち込みはカバーできていた。リーマンショック後に金融規制が強化されたことで米国の金融機関は手足が縛られ、相対的に自由な邦銀にビジネスチャンスが舞い込んでいたためだ。

だがトランプ政権がオバマ政権の規制を次々に撤廃したことでボーナスタイムは終了。メガバンクは生き残りをかけてコスト削減とビジネスモデル刷新に取り組まねばならない状態に追い込まれた。これが3メガグループの足並みがそろった理由である。

とはいえ、各メガ共に自然減による人員調整には言及していても、文字通りにリストラはやらないと明言している。なぜ若手~中堅の流出は始まったのか。鍵は銀行業界でかねてから行われていたセカンドキャリア制度にある。50歳あたりで総合職の行員を子会社、取引先に片道切符で転籍させる新陳代謝システムだ。

だが、子会社といっても無限に銀行出身の50代を受け入れられる余裕はない。実際にバブル世代を受け入れる余裕は既になくなり目詰まりを起こしているという。また、取引先と銀行との力関係の変化も大きく影響している。現在、優良企業の多くは銀行融資を必要としておらず、銀行OBを受け入れたがる企業は少ない。逆に銀行OBを受け入れてでも太いパイプを維持したいという企業は崖っぷち企業ばかりで、そんな会社に押し付けられた側はたまったものではない。

おそらくセカンドキャリア制度は近い将来形骸化し、その後は製造業のような早期退職や追い出し部屋が運用されはじめるのではないか。仮に転籍させてもらえたとしてもロクな会社ではなくて大きく処遇は悪化するのではないか……これが、自力で転職できる人材から流動化を始めた理由だ。

では、今後のメガバンクはどこに向かうのか。モデルはリーマンショック後に大きくリテール事業を見直した米国の銀行にあるという。日本の銀行支店は基幹店で40~50人、小型店でも十数名の人員が在籍し、支店長といえば総合職のゴールともいわれる一国一城の主だが、米国では多くても3~4名、小型店舗なら1~2名という店舗が現在は主流だという。

事務作業の多くはデジタル化され、店舗の行員の仕事は、端末操作のアドバイスや個別の相談窓口とのセッティングなど、一日中立って行う仕事が中心であり、どちらかというと金融業というより小売業に近い。給与水準も5万ドル前後が相場だ。三井住友銀行の新型店舗は明らかにその方向性を意識したものだという。他行もそれに続くのではないか。

では、メガバンクの構造改革は成功するのか。著者は明言していないものの、行間からは悲観的なオーラが感じられる。

第三章で詳述したように、欧米の銀行は邦銀の先を走っている。彼らが低コストチャネルへの誘導を図ったのは、単なる低コスト化だけが目的ではない。欧米の銀行はデジタル技術の導入によって顧客の利便性を劇的に高め、信頼回復に努めたからであって、機械化したから信頼を回復できたという話ではない。

そのようなインフラ整備を重ねてモデルチェンジを果たすとともに、店舗の銀行員はカウンターの反対側から顧客に応対するのではなく、カウンターを取っ払って顧客ロビーで立ち続け、来店した顧客に寄り添うように応対するようになったからである。

(中略)

結論をいえば、結局、対面ビジネスの銀行業は、対面ビジネスの高さによって同業者はもとより、非対面のフィンテック・プレーヤーにも打ち勝つしかない。デジタル化の技術を活用してコスト削減をしつつ、最大の武器である顔が見える営業で質の高いサービスを提供してこその銀行なのだ。

その点から見て邦銀は何をしてきたかというと、超低金利による収益悪化という逆風の中、営業現場に過大な目標を課して顧客軽視のセールスに舵を切ってきた。系列アセットマネジメントが開発した商品を高い手数料で販売し、空室リスクを度外視してでもアパートローンを売り込んだ。

そういう状況が改善されたと言えない中、コスト削減だけを最優先して現場の人員削減に突入するのは、顧客とのリレーションシップという銀行最大の武器を持たないまま、丸腰でフィンテック・プレイヤーと同じ土俵に上がるようなものではないか、というのが本書の結論だ。

筆者自身もメガバンク各行はいずれ文字通りにリストラを含む抜本的な業務体制の見直しに追い込まれると予想している。

ただし、著者も予想するように、将来的にはメガバンクの人事制度は地に足の着いたずっと風通しの良いものにあるはずだ。地域に根差したリレーションシップ重視のために「3年ごとの転勤」は廃止され、業務内容も勤続年数も小売業に近いものになるだろう。

横並びの処遇は見直され、自身で目標を立てて成長できる人材と出来ない人材の格差は大きく開くことになる。半沢直樹的なドロドロした世界より、よほど居心地のよい組織だと感じるのは筆者だけだろうか。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年8月16日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。