外国人庁(仮称)の新設と基本法の制定で、次代に備える

細野 豪志

大きく変わろうとする外国人労働者政策についてこれまで3回書いてきたが、このエントリーでひとまずは最終稿となる。 (その①その②その③

秋の国会論戦を前に、外国人労働者の問題がメディアで取り上げられる機会が増えてきた。それに伴い、地元の報告会や座談会でも、しばしば話題に上るようになってきた。

技能実習生や留学生を目にすることが多くなったこともあってか、大概の人の反応は、現実として外国人の受け入れは進めるべき、もしくは認めざるをえないが、摩擦を起こさないためにも、国として受け入れ体制を整えてほしいというものだった。

法務省の外局で対応できるか

秋に予定されている入国管理法の改正を所管するのは法務省だ。政府は、法務省の入国管理局を拡充して入国管理庁を法務省の外局として新設することを検討している。橋本行革以降、業間的な分野を集約した結果、内閣府、内閣官房が膨張しすぎたことを反省して、各省に仕事を戻す流れを受けたものだろう。

規制官庁である環境省の大臣でありながら、東日本大震災のがれき処理、原発事故の除染といった巨大な国家事業に取り組んだ経験からすると、外国人労働者の受け入れ拡大という遠大な事業を規制官庁である法務省が扱うのは、相当に困難だと思う。当面は、建設業と造船業を所管する国交省、製造業を所管する経産省、宿泊と介護を所管し、労働全般を扱う厚労省、加えて外務省、警察庁あたりから人材をかき集めて対応せざるを得ないだろう。

入国管理という水際の問題は、全体のほんの一部に過ぎない。転職も引っ越しも自由になる特定技能の場合、技能実習生以上に入国後の管理は難しくなる。政府は、業界団体に転職などを仕切らせることを考えているようだが、全ての業界で同レベルのことが期待できるとは思えないし、公権力のないところに、居住地や職歴の把握を期待するのは酷だろう。失踪や犯罪のリスクに正面から備えるのであれば、最低限、マイナンバーの活用を検討すべきだ。

求められる社会統合政策

外国人を巡っては、住宅、日本語教育、社会保障の適用など多岐にわたる問題があり、いずれも非常に重たい。労働力だけなどという、良いとこ取りはできないのだ。そして、多くの困難な政策を地方自治体が担う。多文化共生を掲げて、外国人の社会統合に前向きな自治体とそうでない自治体とでは、対応に相当の差が出てくるだろう。政府としても、特定技能の外国人を雇用する企業と、彼らが住む自治体が協力する枠組みを積極的に後押しする必要がある 。

お隣の韓国では、2007年に在韓外国人処遇基本法が制定されている。わが国も、できる限り早い段階で、法務省から独立した外国人庁(仮称)を設置すると同時に、日本で生活する外国人に関する基本法の制定を検討するべきだ。

客観的な労働市場テストの導入を

社会統合の前提は、わが国に入ってくる外国人が日本社会から歓迎されることだ。率直に言って、各業界からの要望で五月雨式に受け入れ業種が広がりつつある現状は気になっている。

外国人が入ってくることで、日本人が職からあぶれる事態は何としても回避しなければならないし、給与水準の低い外国人が入ることで日本人の給与が抑えられる可能性も見ておかなければならない。

7月末に外務大臣に出された民間有識者による提言にも書かれているが、例えば一定期間、3倍以上の有効求人倍率が続いた職種のみ受け入れ対象とするなど、客観的な労働市場テストの導入は必要だろう。

ダイバーシティ・ジャパン

日本に続いて続々と少子高齢化社会に突入するアジアでは、すでに移民獲得競争が始まっている。先日訪れた地元の日本語学校では、3.11以降、中国人留学生が激減し、ベトナム、スリランカ、インドネシアなどで留学生を募集しているとのことだった。技能実習生でも同様のことが起こっている。

また、現実に多くの外国人を社会で受け入れるとなると、様々な懸念が浮かんでくるのも事実だ。しかし、私は労働人口が減ったのでやむを得ず外国人を受け入れるしかないと考えているのではなく、日本社会が発展するチャンスと捉えている。

わが国には、四季折々の自然、歴史と文化、安全、食、そして技術など、世界中から人材を呼び寄せることのできる魅力が十分にある。鍵は、日本社会のダイバーシティに対する寛容性だ。

特定技能での在留許可は最長5年としているが、自民党の労働力確保に関する特命委員会の基本的な考え方によると「移民政策と誤解されないよう、在留期間の上限を設けることが適当である。その上で、実務経験を積み、各分野に必要な専門性を有することとなった外国人材について、本人が希望する場合には、既存の就労資格で受け入れる外国人材と同様に、引き続き我が国で活躍して頂く道を用意することが適当である」となっている。骨太の方針2018にも同様に永住へ在留資格の変更を認めるという記述がある。これは大きい。現実には、今回の入管法の改正は、移民に道を開くものだ。

永住に道が開かれているかどうかは、本人のモティベーションと、企業の人材投資へのインセンティブに大きく影響する。介護分野など最初の苦労はあるだろうが、外国人の中から日本社会の基幹的な人材が誕生する可能性は高い。その中には、やがて日本国籍を取得する人も出てくるだろう。

米国では、移住の一世は苦労するが、二世は社会になじみ、三世からエリートが誕生するという話を聞いたことがある。わが国は、古代より、漢字から平仮名と片仮名を発明して四季折々の和歌を詠むに至り、同時に仏教文化を花開かせてきた。わが国には、外から入ってきた文化を柔軟に受け入れ(丸のみするのではなく)、日本流にアレンジし、社会を発展させてきた歴史がある。そうした文化は移民によってもたらされたものだ。

彼らを社会全体で受け入れることで、我々自身も変わるべきなのだ。私は、次の時代の日本人が誕生するチャンスが到来したと考えている。

シリーズ
大きく変わる外国人労働者政策 ~最大の技能実習生送り出し国から移民について考える~

技能実習生制度の問題点を克服する ~なぜ、失踪、犯罪が起こるのか~

『外国人労働者』を『人』として受け入れる~ただし、移民政策をヒューマニズムだけで語るべきでない~

関連

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技能実習生の受け入れ現場を歩く
外国人家政婦は定着するか ~入ってくるのは「労働力」ではなく「人」であることを忘れてはならない~


編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(静岡5区、無所属)のオフィシャルブログ 2018年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。