世界に先駆けて超高齢化社会が現実のものになっている日本。誰もが人生を「自分らしく生きたい」と願っている。では、家族の介護について考えたことはあるだろうか?その準備ができている人は少ない。介護問題は大きなうねりとなって、私たちの暮らしのまえに立ち塞がろうとしている。老いた親の姿は、将来のあなたの姿でもある。
今回は、『老いた親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)を紹介したい。著者は、医師・医学博士の榎本睦郎さん。老年医学会専門医であり、平成28年4月より東京医科大学高齢診療科客員講師をつとめている。
老人の話がまわりくどいのはなぜ
老人は話がまわりくどい。同じ話を何度もくりかえす。「またはじまった」と思うあなた。しかし、話を遮ってはいけない。はじめて聞いた顔をしなければいけない。
「5分前に聞いた話をまたくり返す、それも話す順序や力の入れどころまで見事に同じだったりするのには感心するばかり。これは脳の前頭前野の機能が衰えて、さっき話したことを忘れてしまうからです。前頭前野は、判断したり計画を立てたりする知的な働きを司っていて他の動物に比べて人間は大きく発達しています。ところが高度な働をする前頭前野は、加齢によって脳のほかの部分よりもいち早く衰え始めます。」(榎本医師)
「60歳を過ぎると、前頭前野の機能が低下し始めていると思ったほうがいいでしょう。一方、話がまわりくどく、最後まで聞かないと何を言いたいのか理解できない場合は、人間関係の狭さが原因。単純な日常会話だけでことたりて、 会話の訓練が不足しているせいで、伝えたいことを頭の中で簡潔にまとめることに慣れていないのです。」(同)
この時に、「その話、100万回も聞いたよ」とイヤミを言いたくなるがそれはタブーである。何度も同じ話をするのは、心に強く思っているからだと、榎本医師は解説する。
「何度も同じ話をするのは、本人がそのことを心の中で強く思っていて、子供や周囲の人に伝えたいからです。にもかかわらず話を遮られると、本人は自分が否定されたと感じてへこんでしまい、話す気力をそがれます。高齢者にとって何よりもこわいのは、やる気をなくすことです。プライドが傷つくと、話すことだけでなく、食欲も落ち、外出する気力も失せるなど、生活全般に影響してきます。」(榎本医師)
「『またその話か』と思っても、初めて聞いたような顔をしてあいづちを打つ、おうむ返しでくり返す、インタビューでもするつもりで、他の話題をふってみるのもいいかもしれません。高齢者には興味を持って話を聞いてもらっているという満足感を持ってもらいましょう。満足感を持てば同じ話をくり返す必要がなくなります。」(同)
認知症と診断されて家族がすべきこと
榎本医師は、定期的に通院して薬の状況をみながら生活環境を整えていくことが大切だと主張する。薬が処方されたあとの通院サイクルがポイントになるようだ。
「私のクリニックを例に説明します。薬によって違いますが、最初は2~4週間おきに2~3回通院していだき、まずは薬が安全に飲めているかどうかを観察します。基本的にどの薬も少ない量から試していって、その方に合う適切な量に増やしていき、副作用がでていないことを確認したら、その後は月1回の通院になります。」(榎本医師)
「3~4か月以降は、生活環境を整えていく時期になります。生活環境を整えるには、本人と家族と医師の連携が必要で、そこにケアマネジャーなどが加わり、意思疎通をはかっていけば治療はうまくいくはずです。そして、6か月目で1度、薬の判定をします。よい判定が出たら、薬を継続し必要に応じて種類や量を調整しています。」(同)
なお、認知症は本人以上に、介護する家族の負担が大きい。デイサービスやショートステイなどを活用する「息抜き介護」の利用が効果的である。認知症を予防したり、進行を抑えるためには、なるべく家の外に出て、頭と体を刺激することが何より必要。本人の健康維持と家族に休息のためにも、介護サービスの利用は効果的といえる。
日本は超高齢社会に突入し、2035年には3人に1人が高齢者(65歳以上)になると推計されている。老いた親の姿は、あなたの将来の姿でもある。自分が親と同じ年代になったときに、どんな老人になればいいのかという視点を持つことも大切である。
尾藤克之
コラムニスト