旧築地市場で続いてきたと言われる商慣習「鑑札」売買、その実態と今後は?

音喜多 駿

こんにちは、都議会議員(北区選出)のおときた駿です。

昨日は公営企業会計決算特別委員会の山場となる総括質疑、私の持ち時間は17分(!)とわずかでしたが、旧築地市場で続いてきたと言われる「鑑札(かんさつ)」売買について取り上げました。


以下のブログ内容は基本的に昨日の質疑に基づいたものであり、都側の見解は答弁によって正式に示されたものです。

「鑑札」とは、築地市場内で営業する・店舗スペースを利用する権利を指す築地水産仲卸の業界用語です。

築地市場は東京都の施設ですから、本来その営業権(営業の許認可)や店舗スペースの利用権は都が一元的に管理をするはずなのですが、この「鑑札」と呼ばれる権利が水産仲卸事業者同士の間で売買されてきたと言われています。

例えば、築地業者のホームページには以下のような記載が見られます。

(2)コマ数増減への対応築地市場の仲卸は基本的には開設者である東京都の許可事業であるのだが、「鑑札(カンサツ)」の売買によって店を大きくしたり新規参入したりといった事が慣例となっている。(反対に廃業したり店舗を縮小したりする仲卸も当然いる。)
引用元、強調筆者)

実際、今回の豊洲市場移転にあたっては、多くの事業者が移転せずに廃業することを決めましたが、豊洲市場における「店舗スペースの拡大」等を狙って一部の事業者が「鑑札」を買い集めていたことが業界内では話題になっていたようです。

こうして、いわゆる「築地村」の中で鑑札と呼ばれる権利が事業者同士で売買されて完結することにより、

本来であれば許認可権を握っているはずの都の指導力・求心力が低下し、旧築地市場における様々な悪癖が横行した原因になってきたのではないか?

という指摘は、外部有識者のみならず築地仲卸事業者の内部からも上がっていました。

しかしながら、東京都側の公的スタンスは

「事業者同士で権利を売買することは認められていない。あくまで事業者同士の自由なM&Aによって『事業譲渡』が行われているだけで、事業認可・店舗スペースの審査・許認可は別途できちんと都が行っている

というものです。では果たして、その実態はどのようになっているのでしょうか。

まずこの所謂「鑑札」のやり取りによって、仲卸事業者が廃業するとしても、その権利は他の事業者に買い取られてしまうため、経営者交代以外で築地に新規参入したケースは過去10年ありません(答弁では過去10年までの結果でしたが、それ以上さかのぼってもないはずです)。

そして、

「事業譲渡については知事の認可が必要で、東京都が審査・認可をしている(から、事業者同士が勝手に売買はできない)」

というのが都の説明ですが、その「知事の認可」とは何でしょう?審査をした上で、事業譲渡が認められなかったケースはあるのでしょうか?

こちらも答弁によって、少なくとも過去10年はすべてのケースで事業譲渡が認められていたことが判明

その「知事の認可」基準も、形式的な提出書類に基づいて都が「総合的に判断」するというもので、第三者から検証可能な形で明文化された審査基準が存在しません

これだけでかなり、都の認可基準が「ザル」になっていて、事実上事業者同士が権利を売買する風習がまかり通っているのではないか?という思いを強くするわけですが、「店舗スペースの使用許可」にまで目を向けると、ますますその疑惑は強くなります。

水産仲卸事業者が「鑑札」を買う場合、それは店舗面積の拡大を意図するケースが多いと言われています。

都心の一等地、しかも行政よって守られた商売スペースを月額わずか数万円で使用できるわけですから、既存の事業者から見ればこれほど魅力的な権利もないわけです。

ただ、そうした目的で事業譲渡を防ぐ意図もあってか、市場法第29場5項には

「仲卸業者の事業の譲渡し及び譲受け等による地位の承継については、譲渡人(じょうとにん)等が、使用指定を受けていた店舗の使用が認められたものと解してはならない

と明確に記載されています。事業をもらった側が自動的に、その店舗をもらえるわけではありませんよと書いてあるわけですね。

ところがこの実態についても、少なくとも過去10年、事業譲渡をされたすべての事業者に店舗利用の許可が同時に与えられています

加えて事業譲渡の審査と同様、この店舗利用の審査についても第三者から検証可能な明確な基準がなく、その判断は都の裁量に委ねられています

どうでしょうか。「事業者同士の権利の売買はできない、鑑札などという制度は存在しない」というのが東京都の表向きのスタンスです。

しかしながら、新規参入は一切ない。そして仲卸事業者同士の事業譲渡においては、明確な審査基準がなくすべて認可されている。さらには店舗利用は別と言いながら、それもすべてのケースで認可されている。

これでは事業者側が「当事者同士で話がつけば、都は認めるのだな」と解釈し、店舗スペース拡大のために「鑑札」のやり取りをする懸念は払拭できませんし、実際に外部からもそのような目で見られることは避けられません。

まずは、第三者からも検証可能な事業譲渡および店舗利用許可の審査基準を設けること。

そして、そもそも事業譲渡と店舗利用は別問題なのですから、事業譲渡を認めたとしても、店舗は現在のままで行ってもらって、空きスペースは外部公募に出すということも可能で、その気になればすぐにでも検討できるはずです。

これまで都は、卸売市場法や農林水産省が「仲卸事業者の経営規模の拡大や経営体質の強化」を図る方針を取っていることに則り、新規参入を避けてこうした商慣習をいわば黙認してきました。

しかしながら、実態としては市場も仲卸事業者も衰退の一途をたどり、卸売市場法も抜本的な改正が行われるなど、時代は明確な転換点を迎えています。

豊洲市場に移転したこのタイミングは、最大にして最後のチャンスです。今こそ都はこれまでのやり方を見直して、新規参入による豊洲市場の活性化を図るべきです。

外部から常に新しい事業者を迎え入れる新陳代謝は、慣習の固定化を防ぐ効果があります。また新規を迎え入れることで、都もその時折に公平性の観点から点検を行い、それが都の指導力を強化することにもつながるはずです。

昨日の質疑では、新規参入について前向きな答弁がもらえなかったことは残念でした、引き続き現在の事業譲渡・店舗利用における問題点を指摘し、新たな事業者にも門戸が開かれることを提言して参ります。

それでは、また明日。


編集部より:この記事は、あたらしい党代表、東京都議会議員、音喜多駿氏(北区選出)のブログ2018年11月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおときた駿ブログをご覧ください。