病院と在宅の狭間でうごめく家族の責任

ALS患者は、基本的に延命するためには、人工呼吸器と胃ろうの造設が必要です。胃ろうとは、直接胃に栄養を入れる穴のことです。また、人工呼吸器を付けるだけで良いわけではなく、定期的に唾液や痰を吸引することが不可欠となります。

冒頭の写真は、ALS発症初期から私に関わってくれている、美人訪問看護師(美人と書いて!と言われたし、実際美人です^_^)による吸引です。

胃ろうの扱いや吸引は、いわゆる「医療行為」に該当し、原則ヘルパーが行うことは禁止されており、通常は看護師が行います。ヘルパーが当該行為を行うには、然るべき講習を受けた上で、看護師による実技指導を受けて、資格を取得する必要があります。

吸引と胃ろうは命に関わることです。痰が詰まれば窒息死するし、栄養を入れなければ餓死します。そんな責任重大なことを、わざわざ費用をかけて資格を取って、やってくれるヘルパー事業所はそうそうありません。

しかし、そんなハードルが高い医療行為を、家族なら、いつでもどこでも、何の指導も受けずに行うことが出来ます。何故なら、何かあっても『自己責任』だからです。

退院の日時が決まった当初、病院側から妻へのプレッシャーは凄かったです。「奥さんに吸引の指導を受けてもらわなければ…」とか、「カニューレ交換に、奥さんは立ち会えますか?」など、全責任を背負わせるような迫り方でした。

幸い、私がお世話になっているヘルパー事業所は、全て医療行為を行う方針だったので、私は病院側に「入院中にヘルパーさんに吸引等の練習をさせて欲しい。」とお願いしました。しかし、病院側からの返答は、「申し訳ありませんが、家族以外の人に病院で医療行為をさせるのは、法的に認められていません。」というものでした。

私達夫婦は、完全他人介護を目指しています。それを目指す以上、ヘルパーさんの行為によって何かあったとしても、それは「自己責任」だと腹括っています。

法律に何と書いてあるのか確認していませんが、本人が希望して、やる気のあるヘルパーさんもいるのに、病院という最も安全な場所では、練習出来ないということです。これで、病院から在宅への移行がスムーズに行くのでしょうか?

私は、退院後、いざとなったら、刑法37条の緊急避難(人命に関わる場面では、超法的な措置が許される)が適用出来ないか、考えていたくらい悩ましい問題でした。

病院から在宅への流れは、国が推進しており、退院後の自宅に病院から経過観察に看護師を派遣する制度も、最近出来たらしく、私の自宅にも来てくれました。

しかしながら、病院と在宅の壁、その間でうごめく責任の所在問題による、タイムラグや家族の負担は、まだまだ現実にあります。

何とかしないといけないです。


この記事は、株式会社まんまる笑店代表取締役社長、恩田聖敬氏(岐阜フットボールクラブ前社長)のブログ「片道切符社長のその後の目的地は? 」2018年11月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。