辺野古移転の反対を理不尽に正当化する理由なき反抗

2018年12月24日 16:01

米軍のキャンプ・シュワブ基地(辺野古)の敷地内に滑走路を建設して「世界一危険な基地」と呼ばれる普天間基地から飛行場を移転する「辺野古移転」は、米軍の制約条件の下で普天間基地周辺の安全を確保できる唯一の方策であり、沖縄県・日本政府・米国の長年にわたる議論によってギリギリ構築されたコンセンサスであると言えます。

この方策に反対することは、移転を更に遅らせ、普天間基地周辺におけるハザード発生のリスクを高めることになります。また、返還されることになっている普天間基地の土地を運用できなくなり、経済活動における機会損失が発生することになります。

辺野古基地の予定地:編集部撮影

なぜ沖縄県民の多くが辺野古移転に反対するのか

海上に進入経路がある辺野古に飛行場を移転すれば、基地周辺住民の安全性が確保され、沖縄の全体の基地面積も縮小することになります。この2点が実現することは沖縄県民の強い要望であり、辺野古移転は一定の合理性を持っている方策と言えます。ところが、マスメディアの世論調査によれば、沖縄では辺野古移転反対の意見が多数認められます。勿論、一定の合理性を持った方策であっても、それ以上の反対理由があれば移転を反対するのは合理的です。それでは、その反対理由とは一体どのようものなのでしょうか?

実はそれが今よくわかっていないのです。

極めて不可解なことに、地元有力紙の沖縄タイムス・琉球新報、全国紙の朝日新聞・毎日新聞、テレビ放送のテレビ朝日・TBSといった移転反対の論調を持つメディアは、沖縄県に反対者が多いことについては頻繁に報じますが、反対の具体的理由については思わせぶりだけでけっして明示しません。

また、世論調査においても、なぜか反対者に移転反対の具体的理由を聞きません。さらに、[辺野古基金][沖縄平和運動センター]といった反対運動を行っている団体も反対の具体的理由を明示していません。彼らが掲げている唯一の反対理由らしきものは「みんなが反対しているから民主主義のために反対している」ということだけなのです。

簡単に論破されてしまう反対理由

辺野古移転の反対派が反対理由を述べない理由として考えられるのが、その理由を述べると、いとも簡単に論破されてしまうことです。例えば、玉木デニー沖縄県知事は反対の具体的理由を明示している数少ない一人ですが、その内容は次の通りです。

玉木デニー沖縄県知事候補(現・同知事)
基地反対について、私が一番訴えたいことは辺野古の新しい基地の建設、そしてそのための埋め立て工事は断念するべきだ、ということです。この6~7割の県民の思いは揺るぎません。このように訴えている理由は、戦後73年経ってもいまだに、日本の0.6%の面積しかない沖縄県に日本の70%あまりの米軍基地が集中させられているためです[記事]

沖縄県サイトより:編集部

この主張は明らかに不合理です。既存の基地であるキャンプシュワブへの移転によって基地の面積は減少するからです。また、キャンプシュワブ内に建設される辺野古の滑走路は新基地ではなく、新たに接収される土地もありません。さらに「日本の70%あまりの米軍基地」という統計値は正確でなく「日本の70%あまりの米軍専用基地」です。

ちなみに、自衛隊が一部供用する「米軍一時使用施設」を含めた「米軍施設」という観点では、沖縄のシェアは20%程度であり、自衛隊の専用基地も含めた「米軍+自衛隊施設」という観点では、沖縄のシェアは15%程度ということになります[記事]。「日本の70%あまりの米軍基地」というのは、いわゆる【半分真実 half-truth】と呼ばれるレトリックに過ぎません。

一方最近、芸能人のローラ氏が環境破壊を根拠して辺野古移転に反対する[署名]を集めました。

ローラ氏
美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの。名前とアドレスを登録するだけでできちゃうから、ホワイトハウスにこの声を届けよう。芸能以外のことが、すっごくやりたくて[記事]

ローラ公式ブログより:編集部

この主張も明らかに不合理です。ローラ氏のいう「美しい沖縄」ではこれまでも多くの地点で埋め立て工事が行われてきましたし、今後も10か所以上の地点で大規模な新規埋め立ての計画があります。環境を問題視して埋め立てに反対するのであれば、むしろジュゴンの出現頻度が高い沖縄本島西岸に位置する現在進行中の那覇空港の増設工事に反対した方が効果的です。

「芸能以外のことをやりたい」という自己実現目的で目立つネタにとびつくというのはどうかと思います。ちなみに、辺野古の滑走路の場合には、建設予定地が当初案から移動したため、ジュゴンの餌場とされる辺野古周辺の豊かな海草藻場がそのまま保存されることになりました。

ルサンチマン

具体的理由がないのにも拘わらず、沖縄の大衆が自らの要望と矛盾しない辺野古移転に反対する理由として唯一考えられるのが、繰り返されるマスメディアの扇情報道の結果として大衆の内面に生じていると推察される【ルサンチマン ressentiment】の影響です。

ニーチェは、権力者は悪の存在であり権力者に対峙する者は善の存在であると断定することで道徳的に優位に立って権力者を不合理に見下す【畜群 herd instinct】という本能が人間に存在することを指摘しています。ルサンチマンとは、この畜群の原動力となる妬み・憤慨の感情のことであり、この感情に基づく価値判断の規範を【奴隷道徳 slave morality】と言います。沖縄の大衆は「政府は沖縄に寄り添っていない」という認識をマスメディアから一方的に植え付けられることによって畜群本能を引き出され、奴隷道徳に基づくルサンチマンを発動しているものと考えられます。

ルサンチマンの本質は、権力者よりも高潔な【精神 spirit】を持っている自分でありたいという【自己実現 self-actualization】への【欲望 appetite】を行動原理として【理知 logic】を否定するものです。ルサンチマンに心を奪われた人間は、【意志 voluntary】を持ちたいという【感情 emotion】の延長線上で【知性 intellect】を嫌悪します。すなわち【主意主義 voluntarism】の仮面を被った【主情主義 emotionalism】によって【主知主義 intellectualism】を蔑視するのです。現実を検証することなく、自己実現目的で感情を前面に出して署名を集めたローラ氏はまさにこの典型です。

規範となる道徳に基づく自己実現への欲望という行動原理は、明らかに【宗教 religion】の行動原理と一致します。ルサンチマンを発揮するに至っている大衆は、説得者であるマスメディアに対して【内在化 internalization】と呼ばれる重いレヴェルの【同調 conformity】をしているものと考えられます。内在化とは、説得者の考えを正しいと判断して同調するものであり、同調後に態度変化が起こりにくいことが知られています。

ここで、マスメディアが大衆に植え付けた「政府は沖縄に寄り添っていない」という認識は明らかに不合理と言えます。日本政府は、税収が少ない県よりも優先して、普通の県の水準の2倍という圧倒的な額の国庫支出金(全国1位)を私達国民の血税から沖縄県に計上しています[記事]。政府が工事を急ぐのも、可能な限り早期に普天間基地周辺住民の安全を確保すると同時に基地面積を減らすためと考えるのが合理的です。政府にはその理由以外に工事を急ぐ理由はないからです。少なくとも政府は、沖縄の大衆よりは当事者である普天間基地周辺住民に寄り添っています。辺野古移転が遅れれば遅れるほど困るのは、沖縄県の「数の論理」によって阻害されている「沖縄県内のマイノリティ」である普天間基地周辺住民に他ならないからです。

沖縄県知事選挙では、確かに辺野古移転反対を掲げる玉城デニー氏が全体の約55%の票を集めて当選しましたが、普天間基地が位置する宜野湾市長選挙では辺野古移転反対の仲西春雅氏が落選、辺野古が位置する名護市長選挙では辺野古移転反対の稲嶺進氏が落選しました。また、地元の辺野古区民は、米軍と長年にわたる交流もあり、辺野古移転を容認しています[過去記事]。このようなマイノリティの観点から見れば、玉城沖縄県知事は県民投票という数の力を使って少数意見を抑え込もうとしていると言えます。しかしながら、マスメディアはそのような少数意見を一切無視しています。マスメディアが認定する沖縄の【民意 public will】とは「辺野古移転反対」でしかないのです。

エスカレートするマスメディアのプロパガンダ

ルサンチマンを利用したマスメディアによる扇動の極みが、2018年12月15日の朝日新聞社説です。

朝日新聞社説「辺野古に土砂投入 民意も海に埋めるのか」
安倍政権が沖縄・辺野古の海への土砂投入を始めた。(中略)「辺野古ノー」の民意がはっきり示された県知事選から2カ月余。沖縄の過重な基地負担を減らす名目の下、新規に基地を建設するという理不尽を、政権は力ずくで推進している。「いつまで沖縄なんですか。どれだけ沖縄なんですか」先月の安倍首相との会談で玉城デニー知事が発した叫びが、あらためて胸に響く。
■まやかしの法の支配
政府の振る舞いはこの1年を見るだけでも異様だった。(中略)政権は聞く耳をもたなかった。中国や北朝鮮を念頭に、日ごろ「民主主義」や「法の支配」の重要性を説く安倍首相だが、国内でやっていることとのギャップは目を覆うばかりだ。
■思考停止の果てに
その首相をはじめ政権幹部が繰り返し口にするのが「沖縄の皆さんの心に寄り添う」と「辺野古が唯一の解決策」だ。本当にそうなのか。辺野古への移設方針は99年に閣議決定された。しかし基地の固定化を防ぐために県側が求めた「15年の使用期限」などの条件は、その後ほごにされた。そしていま、戦後間もなく米軍が行った「銃剣とブルドーザー」による基地建設とみまごう光景が繰り広げられる。(中略)既成事実を積み重ねて、県民に「抵抗してもむだ」とあきらめを植えつけ、全国の有権者にも「辺野古問題は終わった」と思わせたい。そんな政権の思惑が、土砂の向こうに透けて見える。
■「わがこと」と考える
何より憂うべきは、自らに異を唱える人たちには徹底して冷たく当たり、力で抑え込む一方で、意に沿う人々には経済振興の予算を大盤振る舞いするなどして、ムチとアメの使い分けを躊躇しない手法である。その結果、沖縄には深い分断が刻み込まれてしまった。国がこうと決めたら、地方に有無を言わせない。8月に亡くなった翁長雄志前知事は、こうした政権の姿勢に強い危機感を抱いていた。沖縄のアイデンティティーを前面に押し出すだけでなく、「日本の民主主義と地方自治が問われている」と繰り返し語り、辺野古問題は全国の問題なのだと訴えた。(中略)そんな国であっていいのか。苦難の歴史を背負う沖縄から、いま日本に住む一人ひとりに突きつけられている問いである。

この社説では、辺野古移転の反対理由という問題の論点を一切語らずに、まるで共産主義国の[プロパガンダ映画]のようにひたすら政府を悪魔化してルサンチマンを煽りに煽っています。文章を読む限り、日本政府は日本を支配しようとする悪の結社であるかのようです。

この朝日新聞の造ったストーリーにおける最も大きな論理破綻は、政府が「自分たちのため」に何としてでも辺野古移転を行いたいと考えているかのような思い込みです。日本政府も米国も、沖縄県民が普天間基地を残してもよいと考えるのであれば、辺野古移転を実施する必要はありません。また、普天間基地を残すのもダメで辺野古移転を実施するのもダメというのであれば日米安保条約を解消するしか解決方法はありません。この場合、防衛費は現在の5兆円から20兆円に膨れ上がり、日本は重税に苦しむ軍事大国となるはずです。

勿論、この場合には日本国民が安保条約解消を許容するわけはなく、憲法改正してでも辺野古移転を進めるものと考えられます。この程度の自明なバックワード・インダクションもできずに、誰のためにもならない無責任な扇動社説を書いているプロパガンダ新聞社は淘汰された方がよいと考えます。マスメディアが政権チェックというミッションを遥かに超えて、束となって政治運動を先導している現状は、1930年代から朝日新聞と東京日日新聞(毎日新聞の前身)が国民を扇動して日本を無謀な戦争に巻き込んだ事例とよく類似しています。マスメディアに対する監視は、沖縄県民を含めて、いま日本に住む一人ひとりに突きつけられている問いに他なりません。

不良グループに挑発されて無意味なチキンレースに興じることで損するのは自分であると同時に周辺の人をも不幸にすることを大衆はよく認識すべきであると考えます。「理由なき反抗」はムダの極みです。

「セクハラ」と「パワハラ」野党と「モラハラ」メディア
藤原 かずえ
ワニブックス
2018-09-27

編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2018年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。

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