崖っぷちの日本の商品先物取引は安楽死するしかない

2019年01月21日 06:01

商品先物などの取引が行われている東京商品取引所(TOCOM)と株などの取引が行われている東京証券取引所や大阪取引所を傘下に置く日本取引所グループ(JPX)の統合が難航している。これは今に始まったもめごとではなく、約10年前の第一次安倍内閣で総合取引所構想が提唱されて以来ずっと続いていて、昨年11月に政府の規制改革推進会議が「平成32年ごろの創設」と答申してもまだもめている。

東京商品取引所サイトより:編集部

その要因は様々なことが挙げられているが、端的に言えば市場を監督する官庁の縦割りの弊害で、TOCOMを監督する経産省は金融庁が監督するJPXに飲み込まれることを良しとしないことが大きい。

経産省が自主独立路線を歩むというのであれば、それはそれで勝手にしたらと言いたいところだが、世界の市場が先進的な商品や取引システムをいち早く取り入れると同時に合併を積極的に行って競争力を強化している中で、現在のTOCOMのありさまを見るにつけ、「自主独立は無理でしょう!」と言いたくなる。

1730年に世界に先駆けて大阪の堂島米会所で始まった日本の商品先物取引は、第二次大戦前に統制経済によって廃止となるまで、米相場を中心に活発な取引が行われた。戦後も1962年に小豆相場の攻防を書いた梶山季之の「赤いダイヤ」がベストセラーとなったように、商品市場は株式市場と並んで活発な取引が行われていた。

その後、アメリカのシカゴのCMEや欧州のユーロネクスト、シンガポールのSGX等が取引時間の延長やシステム取引の導入、さらには新商品の上場や合併等でどんどん大きくなって行く中で、日本の商品先物取引はなかなか伸びず、2003年にピークを付けた後は衰退の一途をたどり、今では唯一TOCOMの値が世界の先物相場に影響を与えると言われていたゴムの先物でさえ、ずっと後発の中国の上海先物取引所の方がTOCOMの30倍以上の出来高となっている。

なぜこうなったかと言えば、悪質な商品先物業者が個人顧客を強引な方法で勧誘し、身ぐるみ剥ぐような営業をしたことと、監督官庁である経産省が商品取引所を都合の良い天下り先程度にしか考えず、世界と競争できる市場に育てる努力を怠ってきたツケがまわってきているのだ。

2009年の商品先物取引法改正で押し売り的な勧誘(不招請勧誘)は禁止されたが、その結果は取引高の大幅な減少だった。裏を返せば、それまでいかにひどい営業が行われ、監督当局もそれを見逃してきたかということだ。

また、10年ほど前になるが、経産省の次官が、商品先物ではないが、株のデイトレーダーについて、「本当は競輪場か競馬場に行っていた人がパソコンを使って証券市場に来た……バカで浮気で無責任というやつですから」と言って批判を浴び、後で謝罪をする羽目になったが、スペキュレーター(投機家)が、市場での取引の円滑化に欠かせない役割を果たしているという、世界の市場関係者の常識以前のことがわかっていない人たちが監督しているのだから、市場が発展しないのもうなづける。

もちろん、TOCOMが全く何もしなかったと言っているわけではなく、1999年に石油関連の先物を新たに上場し、2013年には農水省管轄下の東京穀物取引所の取扱商品の移管を受けて、商品のラインアップを幅広くする一方、取引時間を順次延長して2010年には夜間立会を午前4時まで(ゴムを除く)とするなど、市場活性化の努力をしてきたが、時すでに遅くTOCOMの衰退は抑えられず、最近では3期連続で赤字を計上している。

市場の厚みがここまで薄くなってくると、実需を背景にヘッジ取引をする法人企業や機関投資家は敬遠するし、個人投資家でも取引に不自由を感じることが多くなっている。私も極めて少額だが10年余りTOCOMで金や原油の先物取引をした経験がある。

商品の中で比較的取引高が多い金や原油を除けば、商いが薄いため、売買の注文を出しても希望した価格で売買できない(いわゆるスリッページという現象)ことがしょっちゅう起こる。また、FXの世界で最近話題になっている、日本が連休で薄商いとなっているタイミングを狙って価格を大きく動かす、いわゆるフラッシュクラッシュによって日本の投資家のポジションがかすめ取られるのと同様に、市場の厚みが薄い商品市場では相場を一時的に大きく動かして、損失限定のためのストップロスを狙い撃ちにするといったことが可能となっている。

また、少し大きなポジションを持つと、池の中のクジラ状態になって、そのポジションを解消するのに大変苦労するのも市場が小さいからだ。

そもそも株式市場のように日本市場固有の商品(即ち日本の企業の株式)を取引するのと違って、商品先物は基本的に世界共通の貴金属、石油製品、穀物などを取引するのだから、国際競争にもろにさらされている。しかし、今や市場参加者の数や取引高でTOCOMは、アメリカのCMEグループや欧州のユーロネクスト、ユーレックス、中国の上海先物市場等に、周回遅れどころではない差がついてしまっている。

また、インターネット取引や革新的な取引システムの発達によって、個人投資家でも、わざわざTOCOMを通さなくても証券会社等が取り扱っているCFD取引(差金決済取引)によって世界中の取引所の様々な商品を売買することが出来る時代になっている。

こうした中でこれからどうやってTOCOMが自主独立してやっていくというのだろうか。もうこれは放っておいて安楽死を待つしかない。また、JPXもわざわざこんなお荷物と合併する必要はない。ただ、TOCOMの赤字を国民の税金で穴埋めするようなことだけは、絶対やめていただきたいと願うばかりだ。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
有地 浩
株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑