「働き方改革・長時間労働是正」の課題を探る!仕事の生産性をどう伸ばすか --- 前川 孝雄

2019年03月10日 06:00

働き方改革の柱の一つである「長時間労働の是正」。時間外労働の上限規制を導入し、一定日数の年次有給休暇の取得を企業側に義務付けるなど、長らく続いてきた過渡な長時間労働の実態を改善するための法整備が進みました。

しかし、表面的・機械的な残業規制や抑制策によって、現場に負荷がかかり、サービス残業が潜在化することへの憂慮の声などが聞かれます。長時間労働を助長してきた日本企業の構造的な課題や、より根源的な要因に切り込んだ現場での対応策が講じられなければ、それらの歪みによって、働く一人ひとりにも経営にもマイナスの影響が残ることが懸念されます。

そこで、長時間労働是正の課題をより深くとらえ直し、「仕事の生産性」のあり方を考察し、働く一人ひとりが「働きがい」をもちながら、効率的で生産的な働き方を目指す改革のあり方を考えてみましょう。

長時間労働を生み出し温存してきた日本型雇用

いわゆる日本型雇用は、欧米型雇用と比して人材育成の点等で優れた部分が多いものの、長時間労働の温床になってきた側面も否めません。日本型雇用の仕組みは、1940〜1950年代からの製造業を中心とした企業成長のなかで形成されてきました。いわゆる男女の役割分業を基本に、男性は会社で働き、女性は家事・育児を一手に担う形によって、男性は家庭を顧みることなく「一家の大黒柱」として長時間モーレツに働く…。戦後の高度成長時代から平成の初期の頃まで、こうした形が定着してきたのです。

また、製造業の主たる人材はブルーカラーの工場労働者でしたから、定型的な仕事によって「かけた時間=仕事の成果」という図式が成り立ちました。そして、トヨタの「カンバン方式」や「カイゼン活動」に象徴されるように、労働者の仕事の均質化と効率化を図ることで、大きく成果と成長を遂げてきました。

一方、立法から約70年になる労働基準法は、1日の労働時間を8時間と定めましたが、労使の36協定が抜け道となって、実質的には青天井の残業も許容されてきました。また、日本のメンバーシップ型雇用は欧米のジョブ型雇用と異なり、労働力の流動性が会社の内側にあるのが特徴です。

「解雇権の乱用」が認められず、一度雇用した正社員には中長期にわたる雇用保障が必要となりますから、企業は繁忙状況でも労働者を増やす前に、現有労働者の残業で切り抜けることを優先します。そして、残業代は労働者にとって生活費の補填・充実になりますから、本来使用者に対するペナルティであった筈の残業手当は、「時間をかけた方が給与が増える」という労働者への「インセンティブ」になってしまったのです。

ワーク・ライフ・インテグレーションが求められる時代

こうした歪みが課題になるとともに、人材の多様化も進み、「長時間労働の是正」が導入され、企業には待ったなしで残業の縮減が求められているのです。「昭和型」の労働観や働き方はもはや通用せず、改められるべきことは当然でしょう。また、高齢化が進むなかで、過渡な長時間労働が是正され、労働者の生活や健康が守られることも望ましいことです。しかし、ここで考えなければならないことは、そもそも「時間で人を雇用・管理する」という考え方、前提自体がすでに時代にマッチしなくなっていることです。

かつての製造業・ブルーカラー中心の時代から産業構造は大きく変化し、日本国内では今や7割がサービス産業です。そこでは、「開店時間の長さ=成果」ではなく、サービスに対してお金を頂けなければビジネスになりません。

また、若干の揺り戻しが起こっているものの、製造業でも今や工場は人件費の安価な海外に流出し、国内では知識労働を担うホワイトカラーの比率が高いのです。そして、この人たちも「デスクに座っている時間=成果」ではありません。むしろ社内外に多くの人脈や情報源を求めて足を運び、様々な人や仕事から刺激を受け、コミュニケーションを活性化することが求められます。

また、余暇や趣味、家族や知人とのつながりや対話など、プライベートの部分からも良きインスピレーションやアイディアを得て、結果として仕事に活かせることも多いのです。今後はこうしたワーク・ライフ・インテグレーションも主流の考え方になるでしょう。

機械的な残業規制によるマイナスの影響、歪みへの懸念

そうした時代感覚、労働観が求められるにも関わらず、法的措置による時間管理で企業を規制する手法には、現場の歪みを拡大させるリスクが伴います。職場によっては「ムダ」を一切排除する方針で、無用なコミュニケーションを減らし、必要最低限の指示命令や打ち合わせに限定するケースも出ているようです。多様化が進む職場で、これまで以上に丁寧なコミュニケーションが必要にも関わらず、人間関係がギスギスしてしまう恐れがあります。また、パソコンのログ管理で職場内外での残業管理・抑制が進み、終わらない仕事をこっそりスマホやタブレットなどでこなすという事例も出てきています。

新入社員は「長時間労働=悪」「残業させる職場=ブラック企業」とインプットされ、職場も「無理はさせない」モードにならざるを得ません。そこでは、新人・若手社員に対してストレッチを要する一段高い仕事を任せることもしにくくなります。そしてその分、課長層などの中間管理職が仕事を引き取り、業務荷重に陥っています。そんな忙しい上司を見ている若手社員が「あんな管理職にはなりたくない」と考える傾向も強くなっています。

政府が管理指向に走り、企業が機械的な残業規制・時間管理を進めざるを得ず、その結果、コミュニケーションが取りにくく、若手を育てにくい現場を作り出しているのです。

「仕事の生産性」をどう考えるか

そこで、労働時間のあり方に関わって、「仕事の価値・成果」とは何か、「生産性」とは何かを、あらためて考えてみましょう。

まずその際に、会社の売上や業績の良し悪しというのは「企業内部の話」です。仕事の本当の成果とは、お客様や社会に対して価値を提供すること、「お役に立つこと」であり、それこそが企業が生産性として目指すべき目的です。したがって、働き手も「残業が得」との考えを改めると同時に、「自分が時間をかけた仕事がお客様や社会のためになっているか」をよく考えることが大事です。仕事の価値を図る物差しを「労働時間尺度」から「貢献度尺度」に変えていくのです。

日本のサービスは「おもてなし」に象徴されるように、ホスピタリティの高さが世界的に評価されています。また、例えば日本の宅配便やコンビニエンスストアやファストフード店などのサービスの利便性の高さも誇れるものです。お客様に喜ばれ貢献することができれば、その付加価値に対して相応の対価を頂くことができます。

ビジネスの本道は他のサービスと比較して付加価値を高めることができるか否かです。したがって、低価格競争に走るのではなく、独自性があって高付加価値のサービス提供を追究し、それに応じた収入を得ていくことで、仕事の価値・成果・生産性を高めていくという発想・視点が大切です。

顧客価値と「働きがい」を追究するための改革に取り組む

それでは、仕事の生産性を高めるための働き方の改革はどうあるべきでしょうか。

そのためには、まず自社が最終のエンドユーザーの顧客に対してどのような付加価値を提供しているのかを見定めたうえで、それに対し自分の部署・仕事がどう貢献しているのかを紐付けながら、仕事の棚卸しを徹底的に行うことです。

棚卸しの着眼点は、既存の仕事と将来の仕事について「顧客価値・社会価値の提供・向上に結び付く」か否かという尺度(縦軸)と、「会社・上司から支持されている」か否かの尺度(横軸)で見て、㈰今すぐに止めるべき仕事(−、−)、㈪アクセルを踏むべき仕事(+、+)、㈫現状維持か改善か検討を行う仕事(−、+)、㈬新しく創出すべき仕事(+、−)を検討するのです。

大企業ほど様々な部署ごとの業務に細分化されており、仕事の価値づけが難しい場合がありますが、間接的業務であっても後方支援の仕方によって顧客への貢献価値を増すことは可能です。顧客のニーズも変化しますので、棚卸しは時々行うことが望まれます。

こうして仕事の取捨選択を行い、内向き、後ろ向きの仕事、顧客価値に繋がらない仕事は思い切って捨てていくことです。その結果、ムダな残業がなくなれば好ましいことです。そして、意味のある仕事、顧客により高い価値を提供できる仕事に多く専念することで、「人のために動く喜び」である「働きがい」を得られることにも結びつきます。人が主体性を発揮して活き活きと働ける原動力は、「有能感と自己統制」(エドワード.L.デシ)であり、内発的な動機づけと自己裁量で意味ある仕事に自律的に取り組むことが大切です。

「長時間労働の是正」という政府主導・トップダウンの改革は管理指向で他律的になりがちです。また、法律や人事制度でコントロールできるのは主に労働条件・環境などの「衛生要因」です。しかし、働きがいや創造性を育むのは働き手同士の承認関係や仕事の達成感などの「動機づけ要因」です。各企業は、本当の生産性向上を目指し仕事の効率化を図りながら、自律的・創造的に働くことができる真の職場改革に取り組むことが重要なのです。

前川 孝雄  FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師、働きがい創造研究所代表取締役会長
リクルートで「リクナビ」編集長等を経て、2008 年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志にFeelWorks設立し、「人が育つ現場」づくりを支援。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』他多数。

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