フランスの混乱に学べ:キャッシュレス弱者をどう救う?

2019年03月11日 06:01

先週、フランスのテレビのニュースで、フランスの農村地域ではATMの撤去によって地域住民が大いに不便を強いられている「銀行砂漠」の問題が報じられていた。ニュースでは現金を手に入れるために16キロ離れたATMまで車を運転していく住民の姿が映し出されていた。

どこの国も現金払いの習慣からの転換は一大作業だ(写真AC:編集部)

また、フランスでよく見かける町の広場の露天市場で携帯型のカード端末を用いて決済をする露天商や、クレジットカード等での支払いを受け付けざるを得なくなった商店主が、高い手数料に不満を述べるところも報じられていた。

フランスでは民間金融機関がコスト削減のため次々に支店を廃止している。日本のゆうちょ銀行にあたる政府系のラ・ポストも同様に支店の削減を進め、17000ある拠点のうち、実際に店舗を構えているのは9000店弱で、残りは商店や市町村に事務を委託する状況となっている。

このニュースによれば、1日に3500件以上の取引がないとATMは赤字になるので、金融機関として撤去はやむを得ないことであり、2015年から2017年の間だけでフランス全土で2500のATMが撤去され、ATMのない市町村がどんどん増えているそうだ。

フランス政府は、こうした状況に対処するために昨年12月の政令で、商店等のレジでキャッシュカードを使って現金を受け取ることが出来る、キャッシュアウトと呼ばれる制度を整備した。これ以前も金融機関と商店の間の個別の契約で、キャッシュアウトは広がりつつあったが、今回の措置はEUの指令を受けて制度の整備を行ったものだ。

このニュースを見ていて、日本の明日の姿を見ているように感じられた。現在日本政府は20%弱のキャッシュレス化比率を2027年までに40%程度まで引き上げようとしているが、フランスのキャッシュレス決済比率は2015年で39.1%(経産省のキャッシュレスビジョンによる)なので、まさに現在のフランスの状態に日本が近づいていくのだ。

日本ではコンビニにATMがあるので一見不便さはないように思えるが、7320店舗ある東京や3963店舗ある大阪のような大都市は別として、最もコンビニが少ない鳥取県の241店舗、次に少ない島根県の267店舗という数字は(いずれも都道府県データランキングによる上位7チェーンの合計)、地方ではコンビニがそれほどどこにでもあるわけではないことを示している。

ただし、日本ではゆうちょ銀行の支店が、以前よりは若干減ったとはいえ、まだ約24000店舗あることから、当面は「銀行砂漠」の問題が表面化していないのだろうが、地方の人口減少が進む中で、ゆうちょ銀行もいつまでもコストのかかるATMを日本全国に置いておくことはできないのではなかろうか。

政府がキャッシュレス化を推進する中で、地方を中心に、カードを持てず現金での支払いしかできない、いわゆるキャッシュレス弱者が取り残されることが懸念される。

この問題に対処するには、やはり日本でもフランスのようにキャッシュアウトがひとつの重要な解決策となる。
実はまだほとんど知られていないが、日本でも銀行法施行規則が改正されて、昨年から金融機関のキャッシュカードを使って商店のレジでキャッシュアウトができるようになった。これは2000年から本格稼働しているJ-デビットのシステムを使うもので、関係する業界ではずっと以前からキャッシュアウトができることを要望していたが、金融機関がATMの展開を優先したためにずっと棚上げになっていたものだ。

今後地方の人口減少が進み、金融機関が不採算のATMをますます撤去していく中で、キャッシュレス弱者対策としてキャッシュアウトの必要性が改めて認識されるだろう。

ただし、キャッシュアウトが地方、特に過疎地での現金供給策として確立されるためにはいくつかハードルがある。

ひとつはキャッシュアウトを取り扱う商店が、常に現金の用意をする必要があることだ。そしてもう一つは、キャッシュアウトの際に利用者が手数料を負担しなければならないことだ。ATMは時間によっては現金引き出しの手数料がかからなかったりするが、キャッシュアウトは現状では必ず手数料がかかる。自分の預金を引き出すのに手数料を払うことに違和感を持つ人もいるだろう。

今後政府や地方自治体が、こうしたキャッシュレス弱者のために支援を行う方策の一環として、商店へのインセンティブの付与やキャッシュアウト手数料の負担軽減を今から検討しておく必要があると思う。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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