オーディオが“来る”時代、オンキヨー身売りの残念感

2019年05月22日 06:00

「オンキヨー」の主力AV機器事業が米国資本に身売りされるようだ。

オンキヨー、主力ホームAV事業を米社に売却へ (日経新聞)

戦後間もない昭和21年に「大阪電気音響社」として創業。まさに「オンキヨー」という社名通り名門音響機器メーカーと呼ぶに相応しい企業の、とても残念な成り行きだ。

オンキヨーのホームAV製品(公式サイトより:編集部)

かつて世界のトップランナーだった日本の音響メーカー。気が付くと、死屍累々。

もちろん今時外国資本が一概にダメとは思わない。トランプ流の経済国粋主義は、視野狭窄だろう。実際に、モノづくり最大産業の自動車を見ても、例えばボルボは今や中国資本だ。潤沢な資金を得てスウェーデン人がイェーテボリでスカンジナビア流モノづくりの本領を発揮し、高い評価を得るに至っている。英国の名門、ジャガー・ランドローバーもインド資本である。お金に色はない。将来性を見込んで出資をしてくれて、自由な裁量をある程度認めてくれるならば、金主が外国人であっても喜んで受け入れる道もあるだろう。

オンキヨーの場合やはり残念なのは、技術のポテンシャルを持ちながら行き詰まった挙句の敗戦劇であるからだ。このパターン、かつて日本のお家芸AV機器産業で、平成時代に数限りなく繰り返された惨状ではないか。山水電気、ナカミチ、赤井電機は行き詰まり、現在細々と香港資本傘下のようだ。パイオニアも香港の投資ファンド、TEACは米ギブソン、デノンはすでに以前より今回オンキヨーと交渉を行っている米Sound United社グループ傘下だ。

各社ともせいぜい売り上げ数百億円と考えれば、製造業としては規模が大きくない上、音響技術など「枯れた」技術であって、もはや日本が追いかけるほどの価値がない産業なのだと、したり顔もできるだろう。だが果たしてそうだろうか。

すでに高級車で勃発している、プレミアムオーディオ合戦

例えば、現在高級車の世界ではし烈なプレミアム車内オーディオ合戦が繰り広げられている。先鞭をつけたのは、日本でもおなじみの米BOSEだろうか。それぞれの車種ごとの室内空間に音響特性をカスタマイズした、独自技術を盛り込んだ車内オーディオを開発し、メルセデスやフェラーリなど多くの高級車に採用されてきた。

そして、今ではそれに飽き足らず、バングアンドオルフセン(デンマーク)、ブルメスター(独)、マークレビンソン(米)、ネイム(英)、メリディアン(英)などさらにアッパーな音響メーカーの車内オーディオを、標準やオプションで選べるようになっているのである。最高級車であれば、100万円以上のオプションで出力1000W越え、スピーカー数20以上のプレミアムオーディオも当たり前に選べるのである。つまり、高級車という最も付加価値の問われる世界では、オーディオがどういうレベルのものであるかが、現に大きな競争軸になっているのである。

メルセデス・マイバッハSクラスのサウンドシステム(ブルメスター社サイトより:編集部)

それでは、上記にあげた外国製のハイエンドオーディオブランドが、日本の音響機器メーカーにはとても太刀打ちできない相手かと言えば、とてもそうは思えない。現在メルセデスベンツの上級車種に多く純正採用されているブルメスターはプロのロックバンドのギタリストだったディーター・ブルメスターが、1978年に高品位な機器製造を信条として設立したオーディオ・メーカーだ。志は別として、歴史も浅く、大規模な会社でもないのである。

高品質なAV機器がまさに必要とされる時代だからこそ残念な、名門音響機器メーカーの海外身売り

他にも例えば、大ヒット海外ドラマの「SUITS/スーツ」ではニューヨークのエリート弁護士の個室の執務室に、ステータスとして誇らしげにハイエンドなオーディオセットが飾られている。

もちろん、フラッグシップの世界がすぐに庶民の手が届く世界にまで降りてくるわけではないが、音楽や映像コンテンツを楽しむという行為が、誰にとっても人生の喜びであることに間違いはない。まして、4K、8Kの映像技術やスタジオ音源水準のハイレゾオーディオ技術、そしてそれら大容量データを瞬時に家庭までストリーミングさせてしまう大容量通信技術等により、庶民にとっても高音質なオーディオの豊かさを今までよりはるかに気軽に楽しめる未曾有の時代がまさに訪れつつあるのである。(オンキヨーはハイレゾに力を入れていたのに、その点でも残念)

さらには、Google homeやAmazon Echoなどスマートスピーカ的機能とオーディオの融合も進むだろう。

つまり、AV機器はレトロで一部マニアの酔狂な贅沢などではなく、広く生活を彩るライフスタイル商品として、将来の生活の隅々にまで必要とされ、浸透していく可能性が高いのである。そんなジャックポットの瞬間を目の前にして、日本資本のプレイヤーが力を失いつつあることが歯がゆいのだ。

ちなみに、先ほど紹介した自動車プレミアムオーディオメーカーの中に日本資本の企業は一社もない。もちろん、技術力が無いわけではないはずだ。その技術を魅力ある商品に仕立て上げるセンスやデザイン力、ひいてはブランド自体の価値をアピールする技術(ブランディング)がないことが、なんとも残念と言う他ないのである。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
Twitter@ryosukeakizuki

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秋月 涼佑
ブランドプロデューサー

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