米中通商戦争、諸刃の矢の先

トランプ大統領が本気なのはわかります。習近平国家主席も引くに引けない状態にあるのも分かります。それは誰のため、何のため、と聞けば「国民にとって今より良くするための一時的な痛み」と説明されるでしょう。今回の通商戦争は総合力で見ればアメリカが圧倒的に優位にあります。多少の犠牲を払ってでも勝ち抜くという姿勢を官民が一丸となって行っていると考えるならば日本も学ぶところはありそうです。

この数日のニュースを見ているだけでも通商問題が直接的、間接的に影響した結果、中国相手にビジネスをする企業が苦しくなっていることがより鮮明に分かります。

(写真AC:編集部)

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フォードが全世界で7000人のホワイトカラーを削減すると発表しました。中国販売が昨年半減していることがその決定に大きく影響している模様です。GMもすでに大規模リストラ案を発表しており、間接的には中国販売の落ち込みにも理由があります。さらにはインドのタタ自動車が傘下のJLR(ジャガー、ランドローバー)を売却するのではないかという根強い噂があります。同社はそれを否定していますが、中国向け販売が落ちこみ、巨額の赤字を計上していることがその噂の根拠であります。

中国内での自動車販売低迷は通商問題が表面化する前からの傾向に米中交渉の行方が厳しくなる中で拍車をかけたものと考えられます。

ブロードコムやクアルコムなど半導体関連企業の今後の業績下方修正による不振予想も目を覆いたくなる状態になりそうです。中国向け輸出で稼いでいただけに減少分をどう振り向けるか、頭が痛いところでしょう。同様にソフトを提供していたグーグルもファーウェイ製品でグーグルドックなどのソフトが今後、使えなることから影響の範囲は拡大していくものと思われます。

一方の中国側もアメリカに対抗して一部の関税を6月1日から大きく引き上げます。その品目には牛肉、羊肉、豚肉製品、各種野菜、フルーツジュース、調理用油、紅茶、コーヒーといった食材がずらりと並びます。大豆などはすでにアメリカから中国向け輸出が激減しており、トランプ大統領の支持層の農家を苦しめる結果となっています。今後、同様の「耐乏生活」を余儀なくさせられる人は増えそうです。

中国側は食品関連や液化天然ガス、化学製品の関税引き上げを行うことで中国国内での悪性インフレが起きる可能性はあり、国民生活を直撃するようになれば習近平国家主席への風当たりも厳しいものになるように感じます。

かつてアメリカはソ連と長い冷戦期を経験しました。これは世界を分断するほどでしたが、ほどなく、ソ連は崩壊し、アメリカの一国覇権の時代が訪れました。ソ連との冷戦時代は武装能力が双方のパリティ(均衡)を維持するための重要な意味合いがありました。今回の米中通商戦争は双方の貿易を封じ込める持久戦を行うつもりなのでしょうか?とすればトランプ大統領の最終目標は中国の国家体制への挑戦とも取れます。

では91年に崩壊したソ連がロシアに代わってから米中関係はどうなったかといえば冷戦は終結し、一時の緊張感はなくなりました。ロシアが参画するG8の時代もありました。もちろん、ロシアもウクライナやシリアでアメリカと対立する関係になっていますが、対話が出来ている点で落ち着いているのだろうと認識しています。つまり、アメリカにとって冷戦時代の対ソ連への姿勢は正しく、そして勝ち取ったのだから今回も同様に頑張る、ということなのでしょう。

アメリカがなぜ、ここまで強いか、それは国家の一体感ではないかと考えています。官民と国民の理解度、及び行動力において日本が見習う点はありそうです。近年の外から見る日本はかつての強力な一体感はなく、個々人がバラバラになり、協調、協力する姿勢はやや薄れてきているように思えます。アメリカの外交姿勢を見ていると勝ち取る意識の高さを感じないわけにはいきません。日本が一丸となるという気持ちを今一度、思い起こし、それを取り戻さねばならないのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月22日の記事より転載させていただきました。