どうなる世界経済:トランプ大統領の巻き起こした大激震

岡本 裕明

今の経済を一言で述べるならトランプ大統領が自分の主義主張を強く押し出しすぎて制御不能の域に入りつつある、と考えています。もしも彼が吠え続けるならそれなりに繊細で微妙なバランスの上で成り立っていた世界経済がガラガラと音を立てて壊れるかもしれません。

ホワイトハウスFBより:編集部

かつて世界経済はもう少しシンプルでした。貿易と為替という切り口が主流であり、自由という枠の中にも先進国主導である程度バランスされた為替相場で世界経済がファンクションしていたからです。今は金融緩和のマネーが国境を超え、企業は国際化を進め、人も新天地を目指し地球規模で動きます。

このダイナミックな変化に対してリーマンショックのような失敗を繰り返しながらも指導者たちは強固な世界経済体制を築きつつありました。そんな中、トランプ大統領の押し込み方にはいくら何でも無理があります。それは彼が「せっかち」であり、「今すぐ成果がないと駄々をこねる」からであります。子供のようなところが単純なわかりやすさでもあるのですが、世界はもはや、爆走機関車であるトランプ大統領を止めることが出来るのでしょうか?

来年、アメリカ大統領選がありますが、トランプ大統領は再選されないかもしれない、そんな気がしてきています。確かにトランプ氏は就任以降、誰も手を付けなかった問題に次々と驚くスピードでフォーカスし、アメリカの立場を強く押し出して来ましたが、改革というより人を黙らせ、呆れさせ、大統領権限の暴走を許した点に於いてアメリカ政府と議会にも強い責任があります。

夏休み中の投資家や市場関係者を一気に現実の世界に引き戻させた今週の市場の激震はしばし、止まらないかもしれません。最大のキーである中国にも事情があります。それは中国の政治の行方を占い、人事が決まるとされる北戴河会議が週末から始まったからです。

この北戴河会議は通常の会議ではなく、中国の元老など影響力ある人がそこに集まり、小さな会議を繰り返しながら一つのパワーゲームを行うというものです。そのパワーゲームでは習近平氏のポジショニングも当然ながら大きく影響し、国家主席としての絶対的地位が維持できるか大きな試練となります。その中でアメリカとの貿易問題が主要議題になるのは確実で元老たちの不満に強い態度で対策を示す必要があります。

日経によると中国はアメリカの農産品の購入を一時中止すると速報が出ています。これは習近平氏が北戴河向けに出さざるを得ない声明なのだろうと思います。同様に中国元が心理的節目の対ドル7元を下回る元安を容認しているようですが、これも同様の理由と見ています。それに対し、アメリカは中国が為替操作国と速攻で認定しました。プロセスが早すぎます。

多分、株式市場はしばし大荒れになります。特にファンダメンタルズが弱い韓国には厳しい試練が待ち構えているはずですが、日本市場も相当刺激的な状況になるとみています。

トランプ大統領はG20で米中通商戦争の「一時休戦」と言っておきながら第4弾制裁を課すとしたのはいくら何でもルール違反です。私はこの追加制裁はFRBがトランプ大統領の期待する利下げやステートメントを発しなかったお返しだったのではないか、とこのブログで書かせていただきました。その「効果」もあり、9月のFOMCで利下げが行われる公算は相当高くなりました。しかし、それはトランプ大統領自らが壊した世界経済の結果だということを肝に銘じてもらわねばなりません。

それと今一番慌てているのはあのまずい記者会見をしたパウエル議長ではないかという気もします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月6日の記事より転載させていただきました。