小池氏の元ヤフー会長の副知事登用、自民「使い捨て」危惧

新田 哲史

東京都の小池百合子知事が、都参与の宮坂学・元ヤフー会長(51)を副知事に登用する案については「親小池」「反小池」を問わず、驚きと共に好意的に受け止められている感はあるが、都知事選に向けて今後政局が緊迫していくことを考えると、政治的に「無色」だった宮坂氏をいたずらに政争に巻き込む恐れが懸念される。

副知事に指名された宮坂氏(東京都知事Facebookより)

宮坂氏の副知事登用について、報道各社は4日の初報で「都議会も同意する見通し」(東京新聞)と伝えたが、都議会最大野党会派の自民党の一部からは「小池知事の5G戦略や次世代プランが曖昧な中で、宮坂さんのポストだけ用意したことはおかしい」などと異論も出始めている。

川松氏(HPより)

ただし、自民党側も、日本最大のネット企業でトップを務め、経営改革を主導するなど民間で抜群の実績を誇る宮坂氏の手腕そのものについては評価している。

宮坂氏が7月に都参与に就任したことを受け、都議会自民党も先ごろ、5G活用やsociety5.0についての勉強会を開催し、宮坂氏を講師に招いた。勉強会の中身は非常に好評で、「第2弾、第3弾も期待する声も高まった」(関係者)ところだったという。

都議会自民党も2016年都知事選、2017年都議選で敗れた教訓から、小池都政に対し、テクノロジー分野の政策競争でも負けないよう、川松真一朗都議ら若手議員の問題意識は強く、元ヤフートップの都参与就任は歓迎だったようだ。この勉強会を主導した川松氏は宮坂氏について「聡明なだけでなく人物も大変素晴らしい」と好感を隠さなかった。

しかし、特定の政策課題について知事の“コンサルタント”的な存在である参与から、文字通り知事の右腕として“取締役”となる副知事に登用となると、都議会や都庁内部の受け止め方は異なってくる。

知事の「話題作り」優先人事?

ある都政関係者は、来年の知事選に向けて小池氏が「話題作り」を優先するあまり、環境整備が後回しになっているとの見方を示す。宮坂氏が昨年、ヤフーから退任することが明らかになってから、小池氏は副知事登用を含めた都政入りを打診していたという話も漏れ聞こえている。

写真AC:編集部

自民党側もこうした状況から「いくら宮坂氏とはいえ、7月に来たばかり。副知事に登用するほどの信頼関係が築けているのか?」と不信感を強めているわけだ。実際、都庁内はwifiも十分に整備されておらず、自民党が宮坂氏を招いた勉強会ではLANケーブルを30㍍も引っ張って、ノートパソコンに繋ぐ有様だったという。

もちろん、5Gやsociety5.0などを推し進めるにあたり、足元の“アナログ”ぶりを変える入口から、専門的な知見のある民間人材を招聘し、トップダウンで一気に進めるというのは一つの考え方かもしれない。宮坂氏の前に民間出身で副知事で登用された猪瀬直樹氏あたりなら、おそらくそうした考えを示すだろう。

しかし、小池氏の場合、よくいえば“外資的”、悪くいえば波紋ありきで重要な決定事項の根回しを軽視する嫌いはある。正面突破を図って目に見える結果を出せば良い、と割り切っているのだろうが、都知事選に向けた政局も絡み、宮坂氏の副知事登用が波乱含みの様相も帯び始めている。

筆者は、小池氏の重要な意思決定がお世辞にも粗雑なことが相変わらずなことに先行きを危惧している。なにより小池氏は飽きっぽい。宮坂氏が主導するIT政策の数々が成果を出す前に、また意思決定が二転三転し、下手をすれば国政も絡んだ事情で、都政を放り投げて宮坂氏のハシゴを外す事態になりはしまいか。

川松都議も「宮坂氏は唯一無二の存在だけに“使い捨て”にされるようなことだけは絶対にあってはならない」と警鐘を鳴らす。それはポジショントークと割り切れるものではあるまい。

二階幹事長続投で漂う暗雲

自民党サイト、公式ツイッターより:編集部

さらに国政も含めて展望すると、けさの読売新聞は一面で安倍首相は、二階幹事長の続投方針を固めたと報じた。二階氏の続投となると、都知事選に向けて二階氏は小池氏を推し続ける可能性が高い。

一方、二階氏に異論を唱えてきた自民党都連は、対抗馬の擁立に向けて引き続き活動しており、著名人への交渉も水面下で相次いで活発に行なっている模様だ。

小池氏の去就をめぐり「二階 VS 都連」の政争が激しくなったとしよう。宮坂氏は行政未経験。都庁内部を十分に把握できない段階で政局に直面した際、どんなに斬新な政策案をもっていても本人の能力とは別の問題でスタックする恐れはある。

宮坂氏の副知事登用が報じられた直後、大手ネット企業の幹部などが相次いで驚きや歓迎の意向を示した。小池氏のイメージアップ作戦が一見奏功しそうに見える「舞台裏」では、政局をにらんだ思惑がうごめく。宮坂氏のキャリアダウンに繋がるような事態にならないことを祈りたい。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」