韓国の人の考え方を日本人がなかなか理解できない理由に、日本人が朝鮮戦争の悲惨さについて十分に理解していないと言うことがあるのではないか。
日本がポツダム宣言を受け入れたことによって、朝鮮がいずれ独立することは確定的になった。しかし、どういう手順でするのか、日本人は残留するかなどは不明だった。しかし、38度線を境界にソ連とアメリカが占領することになり、準備万端だったソ連は、行政権を対日パルチザンに参加しソ連で本格的な指導者としての訓練を受けた金日成が率いる人民委員会に与えた。
南部では、9月8日にアメリカ軍が上陸して軍政を始め、総督府は解体され、日本人は追放された。国連は1948年に南部だけで総選挙を実施し、日本統治時代にはほとんどアメリカにいた李承晩の支持勢力が勝利し、大韓民国の建国が宣言された。北では金日成による朝鮮民主主義人民共和国が成立した。
日本統治を継続させて、何年後かに独立させたら、南北分断もなく豊かな国になれたのに残念だし、南北分断を日本の責任にされるいわれなどないのだから、南北分断は日本のせいだという韓国人もいるし、それに同調する頭の悪い日本人もあるが、まったく意味不明だ。
最初は、李承晩政権の評判はさんざんである一方、北朝鮮では農地改革が人気を博し順調だったので、南でも北による統一を望む人も多くいた。そこで、金日成は1950年に南進を始めてソウルを占領したので、アメリカは国連軍を創設させ管轄権をアメリカに委任させた。
一時は釜山周辺に追い詰められたが、仁川上陸作戦に成功し、鴨緑江の近くまで進出したのだが、ここに毛沢東が義勇軍というかたちで介入し、1953年に最終的に停戦し、現在の軍事境界線とするまで続いた。
この戦争での韓国・朝鮮人死者は400~500万人といわれ、人口の20%ほどである。とくに、韓国軍も北朝鮮軍も恐るべき数の民間人虐殺を行った。さらに、一説によれば1000万人近い離散家族が生じたという。国民の半数近くが何らかの形で分断されており、文在寅大統領の祖父などは北に残ったらしい。
このために、韓国では日本統治でのなんらかの意味での被害者、朝鮮戦争ののち拉致被害者(ハイジャック、漂流なども含む。韓国も拉致はやっている)などへの同情は相対的に小さい。拉致被害者だと我々は60数年も離散したままだが、拉致被害者はまだ40年だから緊急性は低いとか言った具合だし、日本人拉致被害者への同情もそれほどでもない。
そのことから、たとえば、1965年の日韓国交回復のときに、日本政府から得た資金で、徴用工にせよ、慰安婦にせよまっとうな手当をすれば、朝鮮戦争の被害者と著しいアンバランスが生じたとみられる。それも、個人への補償が不十分になった原因だ。
それは日本でも同じで、引き揚げ者への補償は十分でない。戦災や戦死、さらには農地改革がその典型だが、占領行政も含めてさまざまなかたちの戦争の被害者との均衡を無視するわけにはいかず、小出しに見舞金的なものを出してごまかすことになったのと根底は同じだ。
さらに、朝鮮戦争については、日本は朝鮮戦争特需のおかげで復興したという不満がある。たしかにそういう面もあるが、一方で、日本の後方支援がなかったら、南北は北朝鮮によって統一されていたのだからむしろ恩義があるはずといいたい。
しかし、それも、北朝鮮によって統一されていたならそのほうがよかったという人たちには、通用しないのかもしれない。
もちろん、日本でも北朝鮮の勝利を願っていた人も多いわけで、現在、韓国の主張に味方して日本国民から収奪するのを助けたい日本人は、そういうひとたちそのものだったり、その政治的、思想的継承者なのである。
さらにいえば、日本が韓国との請求権交渉で大甘の譲歩をしたには、日本に責任は皆無とはいえ、朝鮮戦争でひどい目にあった半島の人たちへの同情も背景にあったと当時の雰囲気を思い出してするし、そういうことも忘れてはいけないと思う。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授