東京五輪空手用マット「1円落札」は妥当か?

2019年11月23日 06:00

※画像はイメージです(おんらいふ/写真AC)

東京五輪の空手用マットの競争入札で1円落札が発生した。以下、21日のNHKのニュースより(「東京五輪空手用マット1円で落札:一般には500万円程度」)。発注者は大会組織委員会である。

組織委員会によりますと、東京オリンピックで空手が行われる日本武道館や練習会場で使用するマットを調達するため、ことし7月に一般競争入札を実施したところ4つの業者が参加し、このうち2社が1円で応札しました。

調達にかけたマットは一般的には全体でおよそ500万円程度するということですが、組織委員会は9月に日本武道館で行われた空手のテスト大会で2社の製品を使い、製品の品質を確認したり選手に意見を聞いたりしたうえで、先月1日に埼玉県の業者が1円で落札したということです。

1円入札の動機は、大抵、(口コミを含む)評判のため、名誉のため、というものである。簡単に言えば、1円で落とすメリットが当該商品の価格以上にあるから1円で入札するのである。だから場合によっては「お金を払ってでもよいから受注したい」ということもあるだろう。

一定の質が担保されているのであれば、発注者にとって不都合はなかろう。1円でも「高い」場合があるのだ。問題の本質は安すぎることではなく、1円以上での入札を求めることにあるともいえる。

独禁法上の不当廉売規制に抵触するか。これだけではならないだろう。費用割れの部分だけをみればそのように見えるが、そもそもこのような単発の入札での廉売では、どこの市場でどのような競争制限になるか不明である。同種の入札で似たような傾向が続くのであれば、多少の考慮の余地が生まれるだろうが、独禁法が私的独占の予防規定として不当廉売規制を位置付けていることにどう整合的に結び付けるのか、議論しなければならない点は多くある。

公共契約では公共工事で不当廉売の警告事案がいくつかあるが、出血競争のようなタイプの廉売に規制の網をかけるのには疑問がある。

空手用マットの事案が、ビジネス上のメリットを考えての「合理的」な価格だというのであれば、出発点である原価割れという要件充足すら怪しくなる。それが形式的に満たされたと考えても、廉売のメリットが「受注によって儲かる」という点にあるのなら、それは短期的に損してでも競争相手を排除するというシナリオとは程遠い。

上記報道によれば「調達にかけたマットは一般的には全体でおよそ500万円程度する」が、「組織委員会は9月に日本武道館で行われた空手のテスト大会で2社の製品を使い、製品の品質を確認したり選手に意見を聞いたりしたうえで、先月1日に埼玉県の業者が1円で落札した」とのことである。これが低入札価格調査のような機能を果たしているといえるのだろう。

ただ仮に1円入札した業者が1者だったときに、組織委員会はこのようなテストをしたのだろうか。

公共契約においては同額入札の場合はくじによる抽選となる。入札公告に「同額の場合はテストを行う」と書かれていたのであろうか。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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