逆境のトランプ大統領、アメリカは盤石か?

岡本 裕明

世に吹く風は気まぐれです。その風がそよ風だと思っているといつの間にか飛ばされるほどの猛威を振るうこともあります。トランプ大統領のアメリカは果たして盤石なのか、私には空模様がだいぶ変わってきているように見えます。

4日、NATOの首脳会議に出席したトランプ大統領(The White House/flickr:編集部)

トランプ大統領が訪問中の英国でその立場は決して影響力ある中心人物ではなかったように見えます。そしてNATOでの記者会見を突然、キャンセルしました。アメリカにとって会議が不調だった表れです。

フランスにはデジタル課税への報復で最大100%の関税かけると明言したトランプ大統領は相変わらずTariff Man(関税男)の名に恥じない勝負に出ました。ところが、英国ジョンソン首相は「おれはフランスの味方だ」とアメリカをけん制しました。ジョンソン首相の発言には多分に政治的意図が感じられます。12日の総選挙に向け単独過半数は絶対確保しなくてはいけない中、アメリカのプードルといわれる英国は「飼い犬」ではないという立場を明白にする必要があったのでしょう。

香港人権法案で勢いづくアメリカ議会は下院でウイグル人権法案も圧倒的多数で可決しました。中国側は「バカな法案」と取り合っていませんがアメリカは次々と人権法案を可決させる公算はあります。その意図はルビオ議員に見られるような徹底的な中国叩きであります。もちろん、近年の中国の動向には世界中が注目しており、NATOのロンドン宣言でも対中国の脅威を盛り込みました。その点ではルビオ議員の動きが際立っているとは言えないのかもしれませんが、アメリカがそこまで踏み込む必要があるのかという疑問もあるでしょう。

中国の王毅外相は韓国を訪問中ですが、中韓の関係改善を模索する可能性があります。これはアメリカが在韓駐留軍の費用を5倍に引き上げるという強気姿勢に韓国の左派政権は中国寄りに舵を切りたいところだったと思われます。王外相が文大統領とどんな交渉をするのか注目です。

米中の通商交渉は12月15日に再び税率引き上げを実行するアメリカに対して「第一弾の交渉妥結」がそれまでにできるのか、耳目を集めていますが、その行方を巡り日替わりで楽観と悲観が入れ替わる状態になっています。個人的には無理ではないか、という気がしています。

アメリカと戦って勝てる国はないといわれます。最大の武器はドルという通貨でありましょう。そしてアメリカ市場という大消費地、三番目に政治力、四番目に世界最先端の技術であります。ただし、アメリカがいつまでも盤石かといえばそうでもないかもしれません。

多国間貿易協定ではアメリカは出遅れています。通貨はデジタル化が進行すればドルの威信が揺らぐことはあり得ます。(それゆえアメリカは仮想通貨「リブロ」が嫌いなのであります。)消費も新興国の発展とともに市場のすそ野は広がっています。政治力は多数決の原則があります。どれもアメリカが絶対ではありません。

トランプ大統領が関税を通じて世界の当局者を恐怖に陥れているのはアメリカが攻勢ではなく守勢とみることも可能です。今の利益を確保しつづけ、企業と国民に富を与え続けることが絶対条件である中で世界から嫌われようが、経済戦争をしようが、自分の言い分を貫くというわけです。

ファーウェイがアメリカの研究所をカナダに動かす可能性があると報じられています。一時期注目されたファーウェイ包囲網、今それを積極的に行っているのは日本、オーストラリア、ベトナムなどごく限られた国で東南アジア諸国も多くでファーウェイ ウェルカムとなりつつあります。

アメリカが四面楚歌になった時、一番困るのはトランプ大統領でしょう。民主党は手をこまねいています。対中国の人権法案が上院、下院の圧倒的多数で支持されているのはうがった見方をすれば民主党がトランプ大統領を困らせる作戦ではないか、とも見えるのです。対中国の外交がくちゃくちゃになればなるほど大統領選では民主党に分があります。

これは史上最大の選挙戦なのか、それともアメリカの賞味期限なのか、それとも単に考えすぎなのか、いろいろな切り口はあると思いますが、もがくアメリカがこのままではもっと苦しくなる公算が絶対ないとも言えないように感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月5日の記事より転載させていただきました。