「嘘」を言ってごらん

2020年02月18日 11:30

最近は米Foxの心理サスペンス番組「Lie to me」(邦題「ライ・トゥ・ミー」嘘は真実を語る)を見ている。人間の表情、仕草を観察し、そこからその人が何を考えているかを分析する精神行動分析学者カル・ライトマン(ティム・ロス主演)の話だ。

FoxTV番組「Lie to me」 Fox公式サイトから

人は嘘を言う時、その表情、眼球、口周辺の筋肉に通常ではない動きが出てくる。それを見つけ出し、嘘を言っているのか、本当かを推理していく。その微妙な動き、表情を専門家たちは「マイクロ・エクスプレッション」(微表情)と呼んでいる。学者はインタビューや会談する時には必ずビデオを取り、後日、じっくりと会談相手の表情を追っていく。同番組は実存する精神行動分析学者ポール・エクマン氏をモデルとしている。

同番組(2009~11年、3シーズン48話)は、人間は嘘を言う時必ずある共通の動き、表情を見せる、という前提のもとに描かれている。ニクソン大統領やクリントン大統領の演説時の写真がフラッシュバックとして登場してくる。

彼らが政治的理由から嘘を言うとき、そこには必ず共通する動きがあるから、それを探し出すことで、その時の心理状況、発言内容の真偽を見分けていく。抑制されてきた本当の感情(怒り、悲しみ、幸福感など)が瞬間だが視覚的に現れてくるから、その「微表情」を分析していくことで、事件の謎を解いていく話だ。

当方は「Lei to me」の番組と並行で今話題の「グッド・ドクター」(The Good Doctor)を見ている。自閉症でサヴァン症候群の若き医者の物語だ。「Lie to me」を見ていると、人は常に嘘をついていることが本当に分かる。決して新しい発見ではないが、時にはやりきれない気分になるからだ。

「嘘」といえば、米TV番組「ルシファー」(Lucifer)というシリーズがある。地上界に降りた天使ルシファーは、「あなたは今、何を考えていますか」と人々に直接問いかける。ルシファーに問われた人間は心の中で考えていること、願ってきたことを正直に告白する。ルシファーの前では嘘がつけない。人を殺していた人間は警察官や裁判官の前では無罪を主張できるが、ルシファーの前ではそういかない。

唯一の例外は、ロサンゼルス市警の女警察官クロエ・ダンサーだ。彼女は正直に自身の考えていることを語る。その内容は彼女が普段語ってきたことと一致している。彼女は嘘をついていないのだ。ルシファーは新鮮な驚きを覚え、彼女に強い関心を持つ、といったストーリーで始まる(「ルシファーの前では『嘘』はダメ!!」2019年12月4日参考)。

少し、現実の世界に戻る。中国の習近平国家主席は、1月7日の時点で同国湖北省武漢で発生した新型コロナウィルスへの対応を指示していた、という内容の記事が流れてきた。中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は16日、「中共中央機関誌『求是』に習近平主席は『2月3日の会議で私は新型コロナウイルス肺炎に関して1月7日に警告した』と書いている。しかし2月3日の発表にも1月7日の発表にも、その記録はない。この弁明は後付けで、習近平は嘘を言ったことになる」と喝破している。

新型肺炎への対応で大きなミスを犯したという責任を回避するためにわざわざそのような記事を報じさせたことが分かる。

習近平主席の嘘は中国情報に通じている人になら、直ぐに見破られてしまうレベルだろう。アイルランド出身の英国劇作家オスカー・ワイルド(1854~1900年)は、「嘘は芸術だ」と述べているが、習近平氏の嘘は芸術の域からは程遠い。習近平氏が容易にばれてしまう嘘をつかざるを得なかったということは、同氏がそれだけ追い詰められていることを示すわけだ。

ここではなぜ人は嘘をつくのかについては考えない。人は嘘をついて生きている、という現実を再確認したいだけだ。嘘は明らかに自己防衛の手段だろう。自身の本音が白日の下に明らかになれば、生きていくのが大変になる。だから、懸命に嘘をつき、虚飾を張るが、嘘は嘘だ。永遠に続く嘘は余りない。キリスト教会の告解室に行って、神父の前で告白しなくても、人から脅迫されなくても、人はいつか嘘を告白したくなるものだ。

米国のリベラルなメディアはトランプ大統領が大統領就任以来、何回嘘を言ってきたかを数え、それを「ファクト・ファインディング」と呼んで報じているが、嘘を言うのはトランプ氏の専売特許ではなく、メディアを含む全ての人、政治家は嘘をついてきた。

いずれにしても、「Lie to me」が3シーズンで終わったのは幸いだった。長期連載TV番組「スーパーナチュラル」(Supernatural)」のように10シーズンを超える番組だったら、その番組を観てきた熱心なファンたちは、「人はどれだけ嘘をついて生きているか」ということを嫌というほど教えられるため、憂鬱な思いが払しょくできなくなるからだ。人は嘘を言う存在だ。他者に対してだけではなく、自身に対してもだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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