最高の「新型コロナ経済対策」は自粛の解除である

池田 信夫

米CDCサイトより

新型コロナをめぐって、大型の緊急経済対策が検討されている。瞬間的には10%以上の需給ギャップが生じているので、10兆円規模の財政出動が必要だろう。金融緩和は資金繰り支援としては必要だが、ゼロ金利では総需要の創出効果はない。株式の買い支えは評価損を大きくして日銀のバランスシートを毀損し、危機対応能力をそこなう。

野党は消費税率の5%への引き下げを求めているが、これはナンセンスである。消費税は社会保障を支える長期の財源であり、短期の景気対策で上げたり下げたりするものではない。また消費税率を5%下げても、下がる税額は1ヶ月8000億円程度。減税前に買い控えが起こるので、短期的な効果はほとんどない。

即効性があるのは現金給付である。これにはいろいろな形がありうるが、一番簡単なのは、所得税・住民税や法人税の納税延期や還付だろう。次いで簡単なのは、リーマンショック後の2009年に行われたような定額給付金である。「ほとんどが貯蓄に回るので効果がない」という批判もあるが、それなら有効期限3ヶ月のクーポンにすればいい。

感染対策によって不況の谷は深くなる

それより重要なのは、経済危機の原因になっている自粛をやめることである。クルーグマンやブランシャールなどの寄稿したCEPRの電子書籍では、新型コロナの感染を封じ込める政策とその経済的な影響を検討している。

大事なことは次の図のように、感染対策と経済のトレードオフがあるということだ。感染を放置すると赤いエピカーブ(感染曲線)のように医療機関の限界を超えて医療が崩壊するが、イベント自粛などの封じ込めによって青いカーブのようにゆるやかにすると、不況の谷が図の下のように深くなる。

ここで医療機関を制約条件として、重症患者数を最適化する問題を考えてみよう。縦軸を重症患者数と考えると、青いエピカーブのように重症患者のピークが医療機関の限界に接する場合に、経済的コストは最小になる。つまり最適な重症患者数はゼロではなく、医療を崩壊させない最大値なのだ。

「できる限り感染は少ないほうがいい」という人が多いが、集団免疫の理論によれば、エピカーブの形がどうなっても長期的な感染者数(カーブの下の面積)は変わらない。無理に封じ込めると、あとで感染爆発が起こって医療機関の限界を超えるおそれがある。

この最適化問題は、英米の場合(赤いエピカーブ)のように重症患者数のピークが医療機関の限界を超える場合にはむずかしいが、日本ではコロナの重症患者55人に対して人工呼吸器が約2万台あり、患者数もピークアウトした(実効再生産数R<1)ので、医療機関が重症患者数の絶対的な制約になることは考えられない。

新型コロナは感染症としては、季節性インフルエンザと大して変わらない。日本では昨シーズン、インフルエンザに1100万人が感染し、3000人が死んだ。いま日本のコロナの死者は35人である。R=1になっても、インフルエンザより多くの死者をもたらすことは考えられない。

しかしコロナの経済的被害は、インフルエンザよりはるかに大きい。そのほとんどは、感染症対策で経済活動が萎縮することによるものだ。重症患者が医療の限界内に収まる限り、それはコントロールできない脅威にはならないが、自粛を急に解除すると重症患者が急増して医療の限界を超える可能性もある。

だから重症患者数をモニターしながら、野外のイベントから徐々に自粛を解除したほうがいいだろう。人々が仕事に復帰し、経済活動を正常化することが最高の経済対策である。