日本人は新型コロナに免疫をもっているのか

2020年03月29日 17:00

きのうの安倍首相の記者会見は、新型コロナの緊急事態宣言を出すものかとも思われたが、中身は景気対策の説明だけだった。それはそうだろう。日本の新型コロナ感染者数は約1500人で、人口比では先進国で最小。 死者に至っては人口比でイタリアの1/400、世界平均の1/10である。

各国のコロナ感染者数(FT.com)

このように日本の新型コロナ感染(特に死亡率)が少ない原因として、次のようなものが考えられる(陰謀論は除外)。

  1. 政府や医療機関の対策がうまく行った
  2. きれい好きな日本人の生活習慣が感染を防いだ
  3. 一部の日本人がすでにコロナに対する免疫をもっている
  4. 日本人の感染したコロナウイルスは毒性が弱い

1と2の要因があることは間違いないが、それだけではこの大きな差は説明できない。3と4は常識では考えにくいが、今回の事態は常識を超えているので、あえて常識を無視して考えよう。

インフルエンザ消失の謎

3の要因として考えられるのは、日本人が中国人との交流の中で(従来型)コロナウイルスの抗体をもっており、去年から新型コロナウイルスが日本国内に広がっていたことだ。オクスフォード大学の論文が指摘するように、感染が始まるのは最初の死者が出る1ヶ月以上前なので、日本では昨年末から(人々が気づかない間に)感染が始まった可能性がある。これは香港やシンガポールなど東アジアにも共通だ。

その傍証が、 インフルエンザの奇妙な消失である。今シーズンは世界的にインフルエンザが大流行し、アメリカでは2600万人が感染して1万4000人が死亡した。ところが日本では、昨年末まで史上最高のペースだった流行が、今年初めから急に減速した。

日本のインフルエンザ感染者数(サイト当たり)

この原因は「日本人がコロナの事件で衛生に気をつけたためだ」という説明は成り立たない。コロナが日本で報道されたのは2月上旬のダイヤモンドプリンセスの事件からで、年初には話題にもならなかったからだ。

ある年に一度風邪を引いた人が二度引かないのは、風邪に対する抵抗力ができるからだといわれる。厳密には風邪のウイルスはそれぞれ違うが、人体の抵抗力には共通の要因があるのだろう。だから年末以降日本に入ってきた新型コロナウイルスに感染したためインフルエンザが減った(普通の風邪と診断された)という推測が成り立つ。

もう一つ考えられるのは、日本人がBCG接種でコロナに対する免疫をもっていることだ。これは医学的メカニズムはわからないが、呼吸器に広義の抵抗力がつくのかもしれない。疫学的な相関は強く、大隅典子氏によれば、それほど荒唐無稽な話ではない。BCGの試験的な接種も始まっている。

4の要因として考えられるのは、日本人が(従来型)コロナウイルスに感染して免疫をもっていることだ。コロナウイルスは風邪の原因の20%を占めるありふれたウイルスで、中国から毎年いろんなコロナウイルスが日本に入っている。

COVID-19が注目されたのは武漢で起こった感染爆発のためだが、これは強毒性のL型(ロイシン)コロナウイルスで、日本には弱毒性のS型(セリン)が入ったのではないか、という説は白木公康氏などの専門家も指摘している。

L型とS型の遺伝子配列の違いはアミノ酸1個だけだが、L型は武漢で分離株の96%を占め、その変異したS型は武漢以外で38%を占めたという。ここから弱毒性のS型が早い時期に日本に入って(L型に対しても)免疫ができ、症状の強いL型が(免疫のない)欧米に入ったという推測も成り立つ。これも実証研究が始まっている。

BCG接種と抗体検査の試験が必要だ

総じていえるのは、なんらかの原因で日本人の一部がコロナウイルスに対する抵抗力をもっている可能性が強いということだ。大事なのは、日本人の何%が免疫をもっているかという基礎情報を得ることだ。今まではそれをゼロ%と考えて封じ込めをやってきたが、実効再生産数が1を下回る事実は、感染がピークアウトする集団免疫に近いことを示唆している。

基本再生産数R0が2.5だとすると、オクスフォードのモデルでは3ヶ月あれば日本人の60%以上が感染する。この場合は集団免疫状態なので、自粛は必要ない。それほど多くない場合は、集団免疫との差分が問題だ。たとえば50%が免疫をもっているとすると、残りの10%が免疫をもつまでゆるやかに感染を拡大し、医療資源を温存すればいい。

この仮説を検証するのは簡単である。イギリス政府がやるように新型コロナの抗体検査キットを配布して、サンプル調査をすればいいのだ。これは越智小枝氏もいうように臨床的には当てにならないとしても、1000人の血清検査で十分なので、疫学調査としては低コストで効果的である。

日本人が抗体をもっているのではなく、BCGによって広義の抵抗力をもっているだけだとすると、血清検査では発見できないかもしれないが、S型コロナの抗体は検出できる。ただし個人の自己診断に使うと、陽性の人が病院に押しかける心配もあるので、目的は疫学調査に限定する。

以上は疫学的な仮説で、厳密な医学的根拠はないが、いま必要なのは医学の研究ではなく早期対策である。少なくとも海外で始まっているBCG接種と抗体検査の試験は、今すぐやるべきだ。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長(学術博士)

過去の記事

ページの先頭に戻る↑