はじめに
コロナ災禍におきまして最前線で戦っている医療従事者を始めとするすべての関係者に対して、心から敬意を表します。
本稿は新型コロナウイルス感染予防に注力することは重要ではありますが、社会活動の自粛による経済の停滞が自殺者数を増加させ、結果的にコロナ関連死と平時の医療ができなくなるために犠牲者を上回ってしまうことがないように、検討を促すものです。
緊急事態宣言が4月8日から発出され、きょう21日でちょうど2週間。社会活動の自粛の結果がそろそろ見えてきます。全国的にドライブイン、ウォークイン方式などによる検査体制強化は、検体数を増加させるために新規感染者数が増えます。
サンプル数増により統計データとしては前提条件変更となるため、評価が困難であります。
評価軸が当初と異なる可能性があり、感染者数が横ばい、増加しているという結果を招きやすくなり、緊急事態宣言を延長するという判断もあるでしょう。
もし感染者数が激減していたとしても「完全勝利」を宣言するには新規感染者0人が2週間継続される完封勝利が絶対条件になりますが、その状況になることは不可能といえるでしょう。
緊急事態宣言の解除、自粛モードの解除は感染者数で判断するのは大変厳しいため、別の指標で判断すべきと考えます。
状況判断は重症者数・自殺者数で判断すべき?
そもそも感染者数は各国でPCR検査の実施状況が異なり、マスコミのようにこの数字だけで国比較すること自体が無意味であります。
感染者と経路調査をすることはクラスター発生を抑制する上では非常に有効です。
しかし緊急事態宣言、自粛モードの解除においては感染者数ではなく、重症者・死者数で判断すべきです。
私は洪水対策の研究者でしたが、どんなに大雨が降ろうと洪水被害が微少であれば、河川技術の勝利といえました。これに大雨を感染者数、洪水被害を重症者・死者数と置き換えた場合、どんなに感染者が増えようと重症者・死者数が微少であれば、医学の勝利であるというべきと門外漢ながら考えます。
新型コロナウイルスの感染状況を理解するには重傷者、死者数のみで議論すべきと考えます。
アゴラでは、日本人にとって新型コロナウイルスは過度に恐れるべきものではないとの論者が多いと思います。
永江一石氏は「日本人はどれだけコロナに強いのか、自称WHOの渋谷医師の言葉を借りて証明しよう」で、日本人においてはインフルエンザと同等の致死率0.1%であるとのご主張をされてます。
またサトウ・ジュン氏は「BCGワクチン接種は新型コロナに有効か」ではBCG接種をすると新型コロナウイルスの抗体が現れるとの仮説を示されました。
さらに国際政治学者として憲法学界に鋭い異論を放ってこられた篠田英朗氏も、政府の専門家の数理モデルを批判的に検証されてます。
そして、論陣を引っ張ってこられた池田信夫所長は「なぜ人々は新型コロナをインフルエンザ以上に恐れるのか」において、「欧米で死者数がピークアウトし始めているとき、日本だけ突然カーブが上方屈折して、指数関数(図は対数グラフなので直線)で増えることはありえない」と指摘されています。
たしかに厚生労働省によると、
例年のインフルエンザの感染者数は、国内で推定約1000万人いると言われています。国内の2000年以降の死因別死亡者数では、年間でインフルエンザによる死亡数は214(2001年)~1818(2005年)人です。また、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する超過死亡概念というものがあり、この推計によりインフルエンザによる年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。
としており、致死率0.1%です。インフルエンザと比較して死亡者数が少ないとなれば、何故コロナだけ特別扱いするのかということになります。
また4月15日、国内で感染拡大が続く新型コロナウイルスについて、厚生労働省のクラスター対策班の西浦教授は最悪ケースで死亡数が42万人になると公表しました。
(参照:Buzz Feed Japan「「このままでは8割減できない」 「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由」)
ほぼ全国民が感染しているシミュレーションと推測され、国民の数を1億人とすると死亡率0.4%程度となります。
死亡率は何となくの値に収まりそうです。
しかし感染率についてはまだまだ未解明な部分がありますが、諸外国よりも感染拡大が遅いということで、感染拡大を防ぎつつ、経済活動を回すイメージを国民全体で持ち始める準備が必要と考えます。
前置きが長くなりましたが、コロナによる自粛は雇用状況を悪化させ、自殺者数が増えることは様々な論者の言い分です。
そこで経済指標と自殺者の関係を推定しました(詳細な計算方法については後述)。結果的に言えばGDP成長率マイナス10%が2年間続けば自殺者数1.5万人の増、マイナス20%の場合3〜5万人の増加、マイナス30%の場合6万人の増加となりました。
コロナ対応をしながら、GDPをどのように低下させないか、自粛の在り方をどのようにすべきかよくよくご検討いただければ幸いです。
経済指標から自殺者数の推定
大雑把な推定に使うものであるので、相関係数が高くすることを前提として、様々な設定の根拠については省略させていただきます。
図1は自殺者数の時系列です。1998年に急増していますが、1997年の山一證券の自主廃業により、バブル崩壊が形になって目に見えた事件でその後の混乱を表したものともいえます。
図1 自殺者数の時系列(1978-2019)
人口の変動もあるため、推定式を策定には自殺率(人口10万人に対する自殺者数)を使用します。
また自殺率と国内総生産と完全失業率に関係があると仮定し、そのデータを示します(図2)。
図2 国内総生産(GDP)・完全失業率・自殺率
まずはGDPと完全失業率の関係を整理します。GDPは基本的に右肩上がり、完全失業率は増減を繰り返すため、変化率((当該年値-前年度値)/前年度値)で比較しました(図3)。GDPにおいては一般的に成長率というのでそのままの呼称とし、またGDPの変化がすぐに失業率に影響を与えるわけではないため、GDP成長率の前2年平均を算出しました。
図3 GDP成長率と失業率変化率の時系列
図4はGDO成長率前2年平均と完全失業率変化率の関係です。2004年から2019年までのデータの相関係数が0.83と最も高いために採用しました。説明をつけるとしたら、日本の金融機関がりそな銀行の公的資金投入で金融危機を脱したのが2003年で、アフターバブルが2004年からともいえます。
図4 GDO成長率前2年平均と完全失業率変化率の関係
図5は完全失業率と自殺率の関係です。全体的に線形的に分布し、相関性が高いですが、図4と同様に2004年から2019年のデータでの相関とします。
図5 完全失業率と自殺率の関係
これらの関係とGDP成長率の予測値があれば、GDP成長率 → GDP成長率前2年平均値 → 完全失業率変化率 → 完全失業率 →自殺率 → 自殺者数が推定できます。
GDP成長率に関して、中国1~3月GDP−6.8% 統計の公表以降で初のマイナス、新型コロナウイルス感染 米議会GDP−28%以上を予想などと報じられております(いずれもNHKニュース)。日本においては「4~6月の実質GDP、11%減を予測 民間平均」との予測です(日本経済新聞)。
このコロナ対応は2年間かかるという識者もいますので、年間マイナス10~30%程度が2年間続くという最悪ケースを検討する必要があると思います。ここでGDP成長率の予測値が2年間同じ値であると仮定します。表1はGDP成長率が-3.0~-30.0%であったときの自殺者数の増の計算過程を示したものです。
マイナス10.0%であれば2020年と2021年とも同値で推定します。推定結果は-3.0の成長を2年間続けると4078名の自殺者の増加です。
上述の記事では11%減と予測されており、ここで近しいマイナス10.0%では14,750人、アメリカと同様の状況のマイナス30.0%程度となると59,574人と推定されました。つまり、経済を後回しにするとコロナによる死亡者を自殺者数が圧倒する可能性があるということです。
ここまで分析して改めて痛感するのは、経済・医療両面を勘案しながらの対応が必要だということ。その1点に尽きます。