なぜ人々は新型コロナをインフルエンザ以上に恐れるのか

池田 信夫

私は新型コロナの感染が日本で始まった1月下旬から、一貫して「コロナはインフルエンザ未満の風邪だ」といってきた。一時はたくさん罵詈雑言が飛んできたが、このところおとなしくなった。現実がわかってきたからだろう。

4月12日現在の日本のコロナの患者数は4257人、死者は98人だが、今シーズンのインフル患者数は約700万人、死者は1000人を超えると推定されている。患者数はコロナの1600倍、死者は10倍である。次の図のようにインフル関連死を含む「超過死亡数」でみると、1998年には3万7000人が、昨シーズンは4000人がインフルで死んでいる。

「インフルと違ってコロナはワクチンも特効薬もないから恐い」というのは錯覚である。インフル予防接種の受診率は25%ぐらいで、治療薬の効果は感染から2週間以内。インフルはワクチンがあってもコロナの10倍死ぬのだ

アメリカでもインフルでコロナの3倍死んでいる

では人々は、なぜこれほどコロナを恐れ、政治家は緊急事態宣言を出すのだろうか。その簡単な説明はマスコミが騒ぐからだが、今回は世界各地で流行し、WHOが「パンデミック」と宣言した影響が大きい。最悪の流行が続いているアメリカでは、これまで56万人が感染して2万2000人が死んだ。これをインフルエンザと比べてみよう。

この表はCDCが今シーズンのアメリカのインフル被害をまとめたものだが、患者は3900~5600万人、そのうち死者は2万4000~6万2000人。最大値をとるとインフル患者はコロナの100倍、死者は3倍である。ただCDCはコロナの死者を20万人と推定しているので、死者はインフルを超えるかもしれない。

ヨーロッパでも状況は同様で、国によって差があるが、最悪のイタリアでも、図のように今シーズンはコロナが増えた分だけインフルが減り、65歳以上の死亡率は下がった。これも今後増えるだろうが、空前の大災害というわけではない。

Bloombergより

では「東京は2週間前のNYと同じで、これから感染爆発が起こる」という話は本当だろうか。次の図のように日本の新規死者数の増加率は、ほぼ一次関数だ。これに「これから東京でオーバーシュートが起こって新規感染者が30日で30倍になる」という西浦博氏のモデルを(死者数に換算して)接ぎ木すると、こんな感じだ。


世界の新規死者数(Economist)を加工

欧米で死者数がピークアウトし始めているとき、日本だけ突然カーブが上方屈折して、指数関数(図は対数グラフなので直線)で増えることはありえない。経済学でこんな景気予測をやったら、頭がおかしいと思われるレベルである。

恐れるべきものは恐怖だけ

要するにコロナは、大型のインフルが一冬に二度来たようなもので、それほど驚くべき現象ではない。特に日本では、インフルより大きな被害をもたらすことは考えられない。その原因が東アジアの風土によるものか、BCG接種による自然免疫かについては研究が必要だ。

私は「コロナはインフルと同じだから何もしなくていい」といっているのではない。逆である。感染症は人類の脅威であり、インフルは先進国でも毎年大きな犠牲をもたらしているのに、コロナだけに大騒ぎするのがおかしいのだ。

インフルにはワクチンも治療薬もあるのに、予防接種には健康保険もきかない。インフル予防接種を無料にするコストは、今回のコロナ対策にかける莫大なコストの1万分の1にもならない。

こういうパンデミックは今後も増えるだろう。それはグローバル化の副産物であり、接触を避ける必要はない。感染症対策を整えればいいのだ。

ルーズベルトがいったように、戦いにおいて恐れるべきなのは、恐怖そのものだけである。単なる風邪にマスコミが恐怖をあおり、国民がそれに過剰反応して経済が崩壊する被害は、感染のコストよりはるかに大きい。