西浦モデル検証⑤「日本モデル」ピークアウトへの渋谷氏の反証が待たれる

2020年04月22日 11:31

渋谷の街頭ビジョンで流れる小池都知事のコロナ対策動画(nagi usano/flickr)

緊急事態宣言が4月7日に発出されてから、21日で2週間となった。最初の宣言は7都道府県だけが対象だったとはいえ、14日が一つの節目であることは確かだろう。

ただし、21日と22日の間で大きな変化が訪れる、ということではない。新型コロナの潜伏期間が14日だとはいえ、大多数の発症者は5~6日で発症すると言われている。すでに緊急事態宣言の効果は出始めていたと考えるべきである。

安倍首相は、4月7日に次のように述べていた。

東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。しかし、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。

これをふまえて、東京の様子を見てみよう。曜日による偏差をなくすため、週ごとの様子を、最終日の累積感染者数(括弧内はその週の新規感染者数)で示す。あわせて、1つ前の週と比べたときのそれぞれの増加率を示す。以下の通りである。

4月15~21日: 3,304人( 985人): 1.42倍( 0.87倍)

4月8~14日: 2,319人( 1,125人): 1.94倍( 1.67倍)

4月1日~7日: 1,194人( 673人): 2.29倍( 1.92倍)

3月25~31日: 521人( 350人): 3.04倍( 5.07倍)

東京では、3月25日小池都知事「自粛要請」会見後に目に見えた人の移動の減少が見られた(参照拙稿:新型コロナ:世界的科学者のご神託よりビッグデータ)。

東京都新型コロナウイルス 対策サイトより

私は3月25日以降に「日本版ロックダウン第1段階」が導入されたと考えるべきだ、と言ってきた。4月7日緊急事態宣言は、その効果を増幅させるための「日本版ロックダウン第2段階」と考えるべきものである。その段階的な措置にそって、3月下旬に大幅な上昇を見せた感染者数の増加率は、4月に徐々に低下してきた。4月21日時点の累積感染者数は、「1万人」ではなく、「3,304人」である。

結果として、安倍首相が設定した目標どおり、緊急事態宣言から2週間後の時点で、新規感染者数の増加を止めるという意味での「ピークアウト」が達成された。

全国的な傾向を見てみよう。全国に緊急事態宣言が適用されるようになったのは、5日前の4月16日だった。これはいわば「日本版ロックダウン第3段階」と呼ぶべきものだっただろう。ただし、もともと感染者増加の傾向は、東京(圏)が牽引している傾向が強かった。したがって東京が中心になってとられてきた段階的な措置は、全国的な傾向にも反映されてきていることは、前回までの「検証」で見てきたとおりである。

あらためて4月21日までの全国の様子を見てみよう(参照:東洋経済オンライン

4月15~21日: 10,974人(3,465人): 1.46倍( 0.93倍)

4月8~14日:   7,509人( 3,692人): 1.96倍( 1.91倍)

4月1日~4月7日: 3,817人(1,930人): 2.02倍( 2.43倍)

3月25~31日: 1,887人(792人): 1.72倍( 2.76倍)

東京ほど劇的ではないものの、全国的な傾向としても、3月下旬に非常に高かった増加率は、4月に入って鈍化し始めた。そして21日までの直近の1週間では、遂に新規感染者数が前の週の新規感染者数を下回った。全国においても、安倍首相が設定した目標どおり、緊急事態宣言から2週間後の時点で、新規感染者数の増加を止めるという意味での「ピークアウト」を達成したのである。

東洋経済オンラインより

もちろんこの達成の功績は、一人一人の国民の努力によるものだ。

国内外の「専門家」たちによる「手ぬるい、日本は失敗だ、破滅だ、感染爆発だ」という酷評を覆し、「日本モデル」の緊急事態宣言を通じて、日本国民は、2週間後に到達したかった最初の目標をクリアしたのである。

私は、電車に乗って通勤する会社員がいるとか、吉祥寺を歩いている若者がいるとかを、批判的に責め立てる風潮が好きではない。数多くの会社員は、やむにやまれず通勤して日本経済を維持し続けてくれながら、夜の町には行かずに無言ですばやく帰宅したりして、協力していたのだ。

各人には各人の事情があり、各人なりの社会への貢献がある。事情を知らずに、家の外にいる、といった光景だけで、テレビスタジオや霞が関のビルで特権意識にかられて働き続けている者が、自分のことを棚に上げて、他人を批判するのは、間違っている。

日本国民は、一人一人がそれぞれのやり方で、この「日本モデル」の緊急事態宣言に取り組んでいるのだ。そのことは素直に認めるべきではないだろうか。

ただし、私は、油断は禁物だとも思う。私は、BCG予防接種や集団免疫が日本人の感染率を下げているとは思っていない。

むしろ基礎疾患度の低さに代表される保健状態に始まり、耐性のある伝統文化や社会インフラなどの環境要因が全体的な効果を持ちながら、「日本モデル」のやり方での緊急事態宣言に取り組む国民意識の高さが、それなりの結果を出しているのだと思っている。

私は、楽観論者ではない。3月17日に、私は次のように書いた。

3月14日の安倍首相の会見以降、コロナ問題について、楽観的な雰囲気が出ているように感じる。欧米諸国における混乱ぶりを見て、日本は上手くいっている、と多くの人々が感じている。

危険だろう。

伸び方が欧米諸国より鈍いだけで、感染者も死亡者も右肩上がりで増え続けていることに変わりはない。日に日に感染者は日本全国に蔓延していっているのだ。2週間前、3週間前よりも、感染しやすいということだ。安心しているような状況ではない。

(拙稿:コロナとの戦いは長期戦 ~ 国民の疲弊が怖い

私が書いたとおりだった。3月中旬の緩んだ雰囲気は、3月下旬からの感染者数の急激な増加という現象をもたらした。

4月21日の時点で増加率を1以下にしたという達成は、現実的な考え方で、誇るべき達成である。一部「専門家」が主張しているような、あと2週間でコロナを終息させる、などという非現実的な夢物語とは、違う。国民の努力で増加率を下げたのだとしたら、油断したら、また増加率は上がる。終息は、世界中の人々が甚大な努力を続けて、まだ誰も達成できていない壮大な目標だ。安易に実現可能だと宣伝すべきものではないはずだ。

渋谷氏(King‘s College, Londonより)西浦氏(POLICY DOORより)

もっとも大学教員の渋谷健司「WHO事務局長上級顧問」(日本のメディア用肩書)あるいは「元WHO職員」(海外メディアではこちらの肩書になる)のように、何週間も前から「日本は感染爆発の初期段階」「日本は手遅れ」「喫緊の感染爆発」と主張し続けている「専門家」もいる。(*なお渋谷氏の正式な現在のWHOの肩書については知人を介して調べてみたが、職員リストにはないので契約コンサルタントか何かではないか、と言うこと以上はわからなかった。)

渋谷氏は、ロンドンの自宅にこもりながら、独自の画期的な調査能力を駆使して、政府統計の10倍の10万人の感染者が日本国内にいることを把握し、学者生命を賭けて、日本の雑誌やテレビを通じ、その調査結果を報告し続けている。

離婚直後の年下女子アナと電撃再婚で話題を作ったり、華麗に日本と海外で肩書を使い分けたりもする渋谷氏だ。もうすぐ何か派手なやり方で、学者生命を賭けて、「日本はすでに感染爆発している」主張のエビデンスを出してくるだろう。

「臨床経験の乏しい医師によるロジックのみを操った危ない話」などと言われて黙っているはずはない。

WHO上級顧問・渋谷教授、政府クラスター班・西浦教授が発した数字のマジック(デイリー新潮)

新規の契約がなければ公表しない、などということはないはずだ。

渋谷氏が、学者生命を賭けて、日本にすでに感染爆発が発生していることを証明する論文を発表したとき、われわれは学ぶことができるだろう。学者は存在している事実を見て謙虚に現実を分析しなければいけないこと、抽象的な一般論だけで具体的な事例を理解したつもりなってはいけないこと、海外の大学院で教わらなかったということは世の中に存在していないことの証明にはならないこと、などを学ぶことになるだろう。

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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