西浦モデル検証⑦渋谷健司氏は早く日本の感染爆発の主張の根拠を示せ

2020年04月29日 06:01

4月7日に緊急事態宣言を出した際、安倍首相は、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と述べた。

その日から3週間がたった4月28日の時点での様子を見てみたい。

これまでの『検証』と同じやり方で、東京都の週ごとの動向を見てみよう。累積感染者数(括弧内は新規感染者数)と前の週と比べた時とのそれぞれの増加率である(参照:東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)。

東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより

 4月22~28日: 4,059 人( 753人): 1.22倍( 0.76倍)

4月15~21日: 3,307人( 988人): 1.42倍( 0.87倍)

4月8日~14日: 2,319人( 1,125人): 1.94倍( 1.67倍)

4月1日~4月7日: 1,194人( 673人): 2.29倍( 1.92倍)

3月25日~31日: 521人( 350人): 3.04倍( 3.46倍)

私は、一連の『検証』シリーズで、4月になってから増加率の鈍化が見られ、さらに4月中旬からは新規感染者数は減少傾向に転じたことを指摘してきた。現在も、この傾向が顕著に続いている。

全国的な傾向も見てみよう(参照:東洋経済オンライン「新型コロナウイルス  国内感染の状況」)。

東洋経済オンラインより

4月22~28日: 13,422 人( 2,448人): 1.22倍( 0.70倍)

4月15~21日: 10,974人( 3,465人): 1.46倍( 0.93倍)

4月8日~14日: 7,509人( 3,692人): 1.96倍( 1.91倍)

4月1日~4月7日: 3,817人( 1,930人): 2.02倍( 2.43倍)

3月25日~31日: 1,887人( 792人): 1.72倍( 2.57倍)

これまでの『検証』で確認してきたように、4月に入ってから増加率の鈍化が認められた全国の新規感染者数だが、東京と同じように、4月中旬以降に減少傾向に入り、それは今週も続いた。

減少傾向に入っていることは画期的であり、国民の努力の成果として、素直に賞賛すべきものだと私は考えている。

日本よりも厳格とされるロックダウンを導入した欧米諸国の中の幾つかの国々は、死に物狂いで増加率の停止にまでこぎつけても、なかなか顕著な減少傾向を作れずに苦しんでいる。これまでも何度か示してきFinancial TimesのJohn Burn-Murdoch氏の「片対数スケール」のグラフで新規感染者の増減率の比較を見てみよう。

Financial Timesより

アメリカやイギリスは、何とか増加率の上昇を止めたものの、なかなか下降傾向に入れないで苦しんでいる。これに対して、日本が下降モードに入り始めた様子がわかる。

西浦氏(FCCJ公式YouTubeより)

これについてクラスター対策班の西浦博・北海道大学教授は、4月24日に、次のように述べたという。

「患者はねずみ算式に増えていたが、4月10日ごろから伸びがやや鈍り、今週に入ってさらに鈍化した…。感染から潜伏期間を経て診断を受けるまでの時間を考慮すると、小池百合子都知事が3月25日に外出自粛を要請した効果とみられる。」

出典:東京で感染の伸び鈍化か 大型連休前に緩み懸念も 北大教授(時事通信)

この認識は、この『検証』シリーズで私が繰り返し述べてきていることと、同じである(西浦教授の場合、絶大な政治的影響力を保持しているので、政治家のように『緩みも懸念される』ので『対策の徹底を要請』と政治発言をしなければならないのだが)。

この状況にいたって、大きな混乱が見られているようだ。特に週の初めに少なめの新規感染者数が発表されると、テレビのコメンテーターが動揺し、数字を信じるな、政府の陰謀だ、といったことを力説し、少し新規感染者数が増える日があると安堵する、といった現象が起こっているようである。

さらには月曜・火曜のワイドショーが盛り上がらないので、週末をはさんだ後の新規感染者数の報告が減る傾向を何とかしろ、と無茶苦茶な要求までしているようだ。

曜日に偏差があるのは当然なので、John Burn-Murdoch氏ら世界中のウォッチャーが7日移動平均を採用している。私も大枠を掴むために週単位の数字で動向を見ている。曜日の偏差が気になるなら、自分で週単位の比較をすればいいだけだ。

ところがほんの少しの努力もしない代わりに、月曜・火曜のワイドショーも盛り上げるために週末もたくさん検査をしろ、と要求するという態度には、茫然とする。私を含む国民のほとんどは、粛々と家にこもっているというのに、テレビ番組で「週の初めもワイドショーが盛り上がる数字を持って来い」と叫んでいる人たちは、いったいどこまで偉いのか。

相変わらずPCR検査数が少ないので、数字は信用できない、という主張も根強い。しかし検査数で絶対数の見え方を抑え込むことはできるかもしれないが、増加率に恣意的影響を作り出すのは、簡単ではない。まして曲線を描く変動を、検査の絶対数だけで操作するというのは、ほぼ不可能だろう。報告された数字それ自体の改竄を行うのでなければ、曲線の操作はできないと思う。

渋谷氏(FCCJ公式YouTubeより)

こうした常軌を逸した主張をするコメンテーターばかりがテレビ番組に出演するのは、やはり渋谷健司氏のような方が、何週間も前から「日本は感染爆発の初期段階」「日本は手遅れ」「喫緊の感染爆発」と主張し続けているからだろう。

以前は皇后・雅子様の双子の妹君との離婚と、即座の年下女子アナと電撃再婚で話題を作り、今回も華麗に機会に応じて肩書を使い分けるなど、切れ味抜群の「産婦人科医」の渋谷氏に魅了されているので、テレビのコメンテーターは皆、「数字は信じられない、信じられるのはあの産婦人科医の渋谷健司氏の言葉だけだ」という気持ちになるのだろう。

渋谷氏には、学者生命を賭けて、すでに起こっている日本の感染爆発を証明する義務がある。

精緻な学術論文はもう少し時間がかかるということであれば、日本の雑誌がいくらでも、渋谷氏の学者生命を賭けた日本の感染爆発証明論文を掲載してくれるはずだ。

まさか今さら、新規の大型契約の受注がないと公表しない、などということはないはずだ。

日本の迷えるTVコメンテーターを救うために、産婦人科医・渋谷健司氏は、学者生命を賭けて、一刻も早く日本の感染爆発を証明する論文を公表せよ。

渋谷健司氏については、肩書が多彩であるために、どのように紹介していいか、いつも迷う。渋谷氏は、日本のマスコミでは、「WHO事務局長上級顧問」である。ところが海外のメディアで英語で日本批判をする際には、「元WHO職員(former WHO official)」になる。渋谷氏が代表を務める上杉隆氏が社主である株式会社No Border代表としての肩書は、「WHOコーディネーター」である。

渋谷氏は、2001年からWHOに勤務し、2005~08年に「coordinator for the Health Statistics and Evidence Unit」というコーディネーターの肩書を持った(参照:WHOサイト)。

東京大学は、この「コーディネーター」職しか、渋谷氏とWHOの関わりを認めていない(参照:東京大学サイト)。したがって渋谷氏は、海外では、「元コーディネーター」の「元WHO職員」であるようだ。ここまでは情報が確認できる。

しかし日本では、肩書は変わる。たとえば渋谷氏が創設して2012年にPresidentに就任した「Japan Institute for Global Health (JIGH)」という団体の紹介文では、2005~08年のWHOとの関わりは「Coordinator」ではなく「Chief」ということになっている。

「Chief」の肩書で登場する職務の部分は、渋谷氏の自己申告で作成されている経歴のようなので「Coordinator」が「Chief」になった経緯は不明である。

また、さらに現職として日本のマスコミで「WHO事務局長上級顧問」になる経緯も不明である。WHOが公式に公表している「Senior Advisor」や「Special Advisor」の中には渋谷氏は含まれていない。WHOの幹部職員である私の知人に聞いてみたところ、WHOの職員リストには渋谷という人物は出てこないので、可能性としては、契約コンサルタントか何かではないか、とのことであった。

なお渋谷氏はもともとは産婦人科医である。また、公衆衛生の論文執筆はあるようだが、感染症に関する業績は見つからない。

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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