専門家の後講釈という不実。“死の行軍”続行諮問の面の皮

2020年05月04日 06:01

緊急事態宣言下、平日昼で人気の無い新橋SL広場(編集部撮影)

何かがおかしい。これは本当に現代の出来事なのだろうか。

大本営参謀はさらに前に進めと作戦に固執しているらしい。だが、我々の行軍はすでに歩けないもの多数、今は歩けても皆よろよろしだしている。しかも我々が一体どこまで歩けば良いのか誰も明快には知らされていない。先の見えない行軍をこれ以上続ければ、敵殲滅のはるか手前で我々が屍をさらすことになるだろう。

これは76年前ビルマ、インパールの情景ではない。まぎれもなく令和2年5月日本の風景だ。

ここ最近の報道をみても、すでにただならぬ兆候は見え始めている。

現代の大本営参謀は、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」である。

大本営参謀がそうであったように、現代の「専門家会議」も優れた人品骨柄、錚々たる秀英揃いであり、科学や医療の分野で大きな貢献があった方々であることに異論はない。だが惜しむらくはエリートの常として、ネカフェ住民と接点はないだろうし、まして人を刺すような人間は見たことも聞いたこともないに違いない。

「専門家会議」が医療崩壊を理由にする不実

誰だって危機に際しては圧倒的な権威に頼りたい。ネット上でも「専門家会議」の尽力に支援を贈る声も少なからずある。

安倍首相と記者会見に臨む専門家会議の尾見副座長(官邸HP)

だが、筆者はどうしても釈然としない。なんといっても納得できないのが国民に「徹底した行動変容」(それにしてもこの言葉にすでに国民を駒とみる参謀本部的気質が滲み出ている)を求める主要な理由に「医療提供体制への影響を低減するため」とあることだ。

新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(2020/5/1)=専門家会議

一見もっともらしい理由のように思えるのだが、現在の新型コロナ感染者数は、安倍首相が緊急事態宣言時に根拠とした数字の少なくとも十数分の一の感染者数である。(安倍首相自4/7の会見「東京でこのペースで新型コロナの感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1カ月後には8万人を超える」。実際には5/1 現在で東京都感染者数累計は4317人である。)

これで医療崩壊ギリギリというのだとしたら、本当のパンデミックになっていたとしたら日本の医療は実際どうなってしまっていたのだ。

予見されていた新型ウイルス流行

断っておくがもちろんこの問いは、現在昼夜を問わず懸命に現場で新型コロナウイルスの治療にあたってくださっている医療関係者に向けられるものではまったくない。(それらの方の尽力には深い感謝と尊敬しかない)。

あくまで、医療厚生行政に専門家として関わる立場にあったはずの、まさに「専門家会議」メンバーに対しての疑問である。

新型ウイルス流行については、特に海外で近年ブームと言って良いほどの脅威論が叫ばれていたではないか。典型的にはビルゲイツなどのオピニオンリーダーも、将来の人類存続を脅かしかねない脅威として、真っ先にパンデミックをあげ散々警鐘を鳴らしていた。

(よろしければ、筆者個人サイトでの関連記事あわせてお読みください。「衝撃の書「ホモデウスを読む」 – ビルゲイツのトートバッグ」 )

もっと言えば、近年、SARS、MARSの世界的大流行もあった。(まったくのラッキーでしかないが日本での被害はかなり限定的だったが。)

この専門家会議に呼ばれたような、日本を代表する研究者、医療業界の重鎮こそが、備えをする立場と権限、知見をあわせもつ、まさにその人たちだったのではないか。

まして多くが、国立の機関など何らか公的な役割、処遇を得ている人たちだ。間違いなく、彼らには最悪の事態の十数分の一の流行で国家機能をマヒせざるを得ないような事態を避けるべく備える義務があったはずだ。

そんな面々に、高い場所から滔々と後知恵を講釈され、あげく”おまんま”の食いあげになる我々日本国民の面の皮と言うのは一体どういうものだろう。

落語なら夢落ちで救われるところだが、そんな展開も思い浮かばず、ただひたすら暗澹たる気持ちにならざるを得ないのだ。

そもそも「徹底した行動抑制」作戦に疑念あり

5/1の専門家会議(NHKニュースより)

5/1の専門家会議による会見も見たが、これほど日本社会の将来に破壊的な影響を与える諮問をする論理的、科学的視点で説得的な理由を見出すことは私にも難しかった。

参照:西浦モデルの検証⑧ 西浦教授は専門家会議から撤退せよ(アゴラ篠田英朗氏)

そもそも疑問に感じるのは、日本において欧米並みの感染爆発が起きなかった理由が、緊急事態宣言の主戦略である「徹底した行動抑制」にないのではないかということだ。感染者数の増減だけを見れば小池都知事の自粛要請や緊急事態宣言以降にむしろ増加した。

参照:YouTube 「自粛要請後、日本の感染者が10倍に増えた!私達は間違っていたのかもしれない『感染源』はコレではないだろうか?

「家庭内感染の割合が増加」と今回の専門家会議資料にもあるように、「行動抑制」作戦自体は感染者を増やしたと考える方が整合するぐらいの結果だ。

ツイッター「新型コロナクラスター対策専門家」より

だが、圧倒的な「結果オーライ」だが、日本は他何らかの理由で、パンデミックの事態は免れた。現在(少なくとも第一波の流行に関しては)通常の風邪やインフルエンザと同様収束に向かっているが、その理由を「行動抑制」の効果と当たり前に結びつける分析の根拠を私はこの会見で見出すことができなかった。

参照:安倍政権が隠す新型コロナ「日本の奇跡」の原因(アゴラ:池田信夫氏)

海外の例を見てもむしろロックダウンした国の方が感染爆発を起こしている状況さえあり、「徹底した行動変容」作戦自体に大きな疑念があるのだ。

少なくともこれほどに副作用が強烈な戦略を継続するには、完全に明快な根拠が不可欠と考えるがこんな素朴な疑問にさえ答えが示されていない。

犯罪集団が減っている状況に2発目の水爆をかぶせる

永江一石氏がいみじくも指摘するように、現在のやり方は『東京のどこかに潜んだ犯罪集団を水爆落としてぶち殺す』という類の物騒極まる方法論である。無論、東京にも日本にもたくさんの人が住んでいる。

大阪市立大と岩田先生の神戸大学の抗体検査から推測する新型コロナの致死率(アゴラ:永江一石氏)

「犯罪集団が減った=水爆の効果」では必ずしもない。

水爆を落とさなくても犯罪集団は減ったのかもしれない。むしろ現在公表されている感染者数などの主要な指標を見る限り、水爆と犯罪集団減に明白な関連は見えないように思う。

むしろ相当うがった見方をすれば、2発目の水爆を落とさなければ、水爆と犯罪者減に関係がないことが白日に晒されるのを嫌い、犯罪者が減りつつある状況に2発目の水爆をぶち込み、無理やりに整合性をつけようとしているようにさえ考えられなくもない。

国を代表するような研究者や医者の重鎮がそんなことを考えるだろうか。そんなことはあり得ないと考えたい。

だが歴史を見る限り、エリート参謀集団は無謬性に固執する。まさに先の大戦における大本営参謀がそうであったではないか。無数の国民の犠牲のもとに強行された、数々の無残な作戦失敗。それは悪意や怠慢のもとでなく、国家の危機に直面したエリートたちの人一倍の責任感とプライドにより断行されたのだ。

まして、現代社会の複雑に専門領域が細分化された社会の専門家は、逆に言えば”専門外には無責任を自認している人”でもある。

参照:我々の歯痒さの正体。政治家よ危機にこそ理念を語れ(アゴラ拙稿)

そんなメンタリティーは残念ながら、この「専門家会議のメンバー」しかりなのである。提言に一応の経済や教育などに対する配慮の文言は含まれているが、彼らは今後起こる経済崩壊に自らが全責任を負うとは微塵も考えていないだろう。

もちろんだからこそ政治の責任があるのである。

ギリギリの決断でも良い、「死して屍拾うものなし。」の殺伐が我が国、未来の光景にならないことを心から願うところである。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

過去の記事

ページの先頭に戻る↑