安倍支持を口にし辛い空気が漂ってはいまいか

筆者が小学生だった昭和30年代、朝礼の日には校庭で鼓笛隊の奏する「君が代」に唱和しつつ、スルスルとポールを揚がる「日の丸」を見上げたものだった。だが、近頃は国民の祝日に小旗を玄関先に掲げることすら何となく憚られる。

官邸HP

安倍総理への支持も、最近は大っぴらに口にし辛い空気が漂う。筆者と同世代の高齢者や少し上の団塊の世代を前にしてはなおさらだ。学生時分の同級や会社の先輩、行きつけの店の飲み友達らも当然のことながら大半がこの世代。

彼らと世間話をしていると「安倍はダメだね」とか、甚だしくは「アベのヤローが」などという語が口を衝いて出してくる。筆者には、彼らがそのようにいうことが義務のように思え、とぼけて「そうですか、でもなぜ?」と問う。

すると「だってモリカケと来て、桜に黒川だろう、コロナ対策もダメ」などという。筆者は、給付金が遅いだけだろうと思いつつ、「モリカケねえ、で、安倍さん何をした?」と聞く。すると「それはヨー」とか「昭恵がー」というものの、後がちっとも続かない。

こりゃダメだと思うが、座が白けるので、「隣の公園の土地はタダ同然だった」とか、「獣医学部が新設されなかったのは献金を受けた石破の4条件が」とか、「あの人事は検察の要望」とかいうのは無粋、とつい口をつぐむ。

きっと彼らは、テレビや新聞などマスメディアや一部野党が創作した虚構によって「安倍が悪い」との印象を刷り込まれていることにお気付きでない。そのマスメディアの幹部には、挫折したかつての全共闘世代が長らく鎮座した。

なので、世論調査では「安倍の人柄が信用できない」との不支持理由が5割を超える。だが選挙で自民党が常勝なのは、「他よりまし」が内閣支持理由の万年一位だからか。しかし、この安倍の人柄にしろマスメディアの創作だ。枝野や福山や辻元や福島らに比べてどこが不信か。

内政では不評の安倍政権も、外交の評価は悪くない。その海外に目を転ずれば、米国でも余程強固な支持者でない限り、表立ってトランプ支持を口にするのは憚られるようだ。残り5ヵ月を切った大統領選の世論調査でも、バイデンがトランプに10%近い差をつけている。

だが、筆者が拙稿で触れたFOX Newsの「Left silences silent majority – but watch for this in November」のように、トランプ支持はサイレントマジョリティらしい。MAGA(Make America Great Again)は口にしないが、心中では賛同する。

ホワイトハウス公式FB動画より:編集部

日米のこの状況のキーワードは「保守」VS「マスメディア」だろう。国旗掲揚や9条改正が日本で憚られるのはGHQの残滓ともいえる。が、トランプ支持を口にし辛い空気は、過度なポリコレやアイデンティティ政治の風潮とそれを囃すマスメディアの創作だ。

日本でも幅を利かせ始めたこの風潮は、性別や人種や宗教や障害などへの非差別や環境保護などの活動で、誰も正面切って否定し辛い。だがその行き過ぎにやはり「保守」は鼻白む。だからトランプはオバマに象徴されるポリコレ的なものを否定する。パリ協定脱退然り、国境の壁然り。

トランプ流は、裏で煽って得をする何者かに、お前らの思う通りにはさせないぞ、と宣戦布告しているかのようだ。誰が得をしているかといえば、グローバリストやそれと利害を一にする中国だろう。グレタ応援団の米法律事務所アースジャスティスなどは知られた存在だ。

目下米国で起きている抗議活動は、かつて人種差別などに加担したとされる者の像の破壊や施設の名称見直しにまで及ぶ。トランプは「歴史的遺産」としてその保護を主張して至極真っ当だが、ワシントンポストは「右翼の怒りを増幅させるためだ」とこれを難じる。

ニューヨーク・タイムズの編集責任者は、共和党トム・コットン上院議員の、暴徒化したデモに向けた「国は秩序を回復せねばならない。軍は準備完了」と題したトランプ擁護の寄稿を掲載したが、読者や同僚の批判に紙面で自己批判して辞任した(参照:KHTV News)。文化大革命じゃあるまいし。

この動きは英国にも飛び火、奴隷貿易に関わった者の像撤去や歴史教育見直しの声が出始めた。だが、ジョンソン首相は、そういった負の過去に集中する余り「歴史上の人物が十分に純粋であるかや、政治的に正しいかについての終わりのない議論に引き込まれてはならない」と憂慮する。

かの名著『日本人とユダヤ人』には、ヴァージニア州最初の奴隷所有者は黒人の地主で、問題は単に皮膚の色でない、とある。今の価値観では奴隷は酷い人権蹂躙だが昔は当たり前だった。破壊して過去が消せる訳ではない歴史遺産は、むしろ残して将来の戒めにすべきだろう。

今を高々80年しか生きない者が、現在の価値観で過去の価値観を否定することが間違いなのは、前述の文革で証明済。これら行き過ぎた風潮の裏で毛沢東的なもの、すなわち共産主義主導の全体主義、が蠢いてはいまいかと気付く必要があろう。韓国の積弊清算然り。

それに気付く心を「保守」とするなら、安倍やトランプは紛れもない「保守」。だからケミストリーが合う。マスメディアが創作した空気に気圧されて、「保守」支持を口にし辛いようでは未来が危うい。せめてサイレントマジョリティであらねばと思う。