情報通信白書2020が公表されました。
特集テーマ「5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築」。コロナによる新生活様式、働き方を展望し、5Gが及ぼす影響について分析します。「Beyond 5G」に向けた動向も紹介しています。
5Gという基盤の上に、AI・ビッグデータ・IoTの技術で産業の効率化・高付加価値化を目指してきたが、コロナにより、人の生命保護を前提に、サイバー空間とリアル空間が同期する社会へ向かう不可逆的な進化が「新たな価値を創出する」というポジティブな認識を示します。
まず、通信市場の変化に関し、携帯電話端末/スマホの市場で日本企業の存在感が低くなっているとの指摘があります。ぼくは日本製の機器を伸ばす政策目標がかねてから疑問でした。どこ製だろうが、ユーザの便益を最大化する政策を採るべきだと。その意見はずっと無視されていました。
日本製がゼロになって、起業ユーザはを含め、利用者は泣いているでしょうか? そんなことはあるまい。
機器産業が負けても、他の利用産業が勝てば、その方がいい。
ユーザの便益をどう可視化し、分析するか。それが政策テーマではないでしょうか。
次に白書は、日本は課題先進国で、人口減少・少子高齢化が進んでおり、ICTを導入・利活用することで、雇用や生活の質、労働生産性の向上を積極的に進めるべき、という認識を示します。正しいです。
つまり、通信政策は、かつての通信産業拡大政策から、通信利用政策に移った、ということです。
そこでコロナです。
テレワーク、遠隔授業、遠隔医療が拡大しています。
一方、トラフィック増、セキュリティリスクへの対応、電子契約への移行などの課題を挙げています。正しい。
そして教育は、学校から家庭の情報化へと政策課題が移動します。総務省マターとなります。今後踏み込む必要があるでしょう。
いや、企業、学校、病院より、役所が問題です。行政の情報化。
これは総務省に責任があります。
ICTと、国の行政情報システムと、地方行政を所管する役所ですから。
その踏み込みは、まだ甘い。
でも書けないんですよね。白書は全省庁との協議が必要だから。ボコボコに削られちゃう。
白書とは別のアプローチが必要でしょう。
今回の白書は5Gが主役です。
超高速、超低遅延、多数同時接続。
でも、そのリアリティーがまだありません。よくわからないんです。
なので白書もユースケースを共有する段階。
農業、インフラ、建設、モビリティ。
個人利用よりも産業利用を前面に出しています。まずはそうでしょう。
同時に、5G=IoTはデータが主役となります。
まだその認識は一般的ではありますまい。
これもデータを活用したビジネスや生活の実例がリアリティーをもって共有されていないから。
利用者にとってデータが利用・流通することのメリットを示していくことが政策課題でしょう。
ところでICT分野の基本データに気になる数値がありました。
情報通信産業の国内生産額は99.1兆円で全産業の9.8%。
実質成長率に対する情報通信産業の寄与率は40.8%。
ICT財・サービスの貿易額は輸入12.8兆円、輸出8.7兆円。
「とはいえ」産業インパクトは大きい。特に貿易赤字4兆円の扱いは、政策テーマたり得ます。
情報通信産業の研究費は3.9兆円、企業研究費の27.4%。
情報通信産業の研究者数は17.6万人で企業研究者の34.8%。
国にとって実に重い位置を占めています。
審議会などでは政府のR&D投資がよく論じられますが、民間のR&D力をどうするかの方が重要テーマと考えます。
コロナ☓5G。この1年は社会経済もICTも刷新の時期となります。
何事もなければ五輪を振り返っていたであろう来年の白書は、何をどうテーマ化しますかね。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年11月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。