[前回記事]では、日最低気温の前週との差(以下「気温差」とする)の増減とコロナ感染の実効再生産数の増減のタイミングが非常によく一致していることを、東京都の観測データを用いて示しました(図-1参照)。
特に、気温低下量が-2度を超えると実効再生産数の増加が顕著になる傾向があり、この特性を利用すれば、感染が拡大しやすい時期を高確度で事前把握してコロナ対策をより効果的に行うことも可能であると考えます。
この記事では、東京都以外の地域、具体的には札幌市・愛知県・大阪府・福岡県・沖縄県における気温差と実効再生産数の関連性を検討したいと思います。これら各地域の新規陽性者数の推移は図-2のとおりです。
図-2 各地域における新規陽性者数の中央7日移動平均(報告ベース)
結論を先に言わせていただければ、これらの地域でも、気温差と実効再生産数の増減のタイミングはよく一致していると言えます。
札幌市
札幌市には、北海道の人口の1/3が集中しています。北海道は日本の都道府県で人口密度が最小ですが、札幌市の人口密度は愛知県よりも高いと言えます。札幌市の感染の特徴は、梅雨から夏にかけて新規陽性者は非常に少なかったのですが、10月中旬から日本で最も早くいわゆる「第三波」が発生しました。その後、全国の大都市に先駆けて11月下旬から感染者が減少し現在に至っています。
梅雨から夏にかけて新規陽性者が他地域と比べて非常に少なかったのは、北海道には基本的に明確な梅雨が存在しないことによるものと考えられます。本州以南にある顕著な「梅雨冷え」が北海道にはないのです。なお、図をみると、この時期に実効再生産数が急拡大しているように見えますが、これは陽性者数が極めて少ないために僅かな増加によって数値が大きく変動したに過ぎません。
一方10月になると急激な冷えが到来します。気温差が-6度に到達した図中のbはその典型であり、その後は波状攻撃のように秋冷えが繰り返し到来します(c-f)。この秋冷えは10月下旬からの感染拡大の主要な要因になったものと考えられます。
大阪府と愛知県
大阪府と愛知県は気温差の曲線形状が類似しており、実効再生産数の増減のタイミングも類似しています。大阪府の感染率が高くなっている要因としては人口密度の影響が考えられます。
第二波は顕著な梅雨冷え(a)が誘発した可能性があります。第三波の主要因は、札幌市と同様、秋冷えの波状攻撃と考えられます(c-f)。12月中旬の急激な冷え(h)は冬将軍の到来によるものであり、これに伴う感染拡大は第4波と考えた方がよいかもしれません。
福岡県
福岡県の第二波は、大阪府・愛知県と同様に顕著な梅雨冷え(a)が誘発した可能性があります。第三波の到来は、大阪府・愛知県よりも大きく遅れています。
福岡県には、10月上旬に顕著な秋冷え(b)が到来しましたが、その後11月中旬になるまで秋冷えが到来しませんでした。このため感染がいったん収まり、結果として第三波の到来が他地域よりも遅れた可能性があります。また、冬将軍の到来は他地域と比べると顕著ではありません。
沖縄県
沖縄県の夏の感染拡大(a)は他地域よりも若干遅くインパクトは高いものでした。これには戻り梅雨の影響が考えられます。ちなみに、実効再生産数の増加はGoToトラベルの開始よりも早い7月中旬から始まっています。
沖縄県の気温差の変動は、他地域とは異なり、2週間周期で概ね規則正しく発生しています。この影響で実効再生産数にも2週間周期の波が顕著に表れています。
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さて、今回非常に興味深いと思ったのが、気温差と実効再生産数とのタイムラグが各地域において異なることです。
札幌市:26日
東京都:20日
愛知県:23日
大阪府:23日
福岡県:28日
沖縄県:36日
図-8に示すように、人間の接触確率に影響を与える「人口密度」は一つの有力な仮説となると思います。また「東京都との距離」も線形関係にあります。今後、検討地域を増やして検証してみたいと思います。
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この記事では、気温差と実効再生産数の関係をいくつかの地域で比較検証してみました。いずれの地域においても、気温差の増減と実効再生産数の増減のタイミングは概ね一致し、各地域で異なる気温差の時系列挙動が、実効再生産数および新規陽性者数の時系列挙動を予測するのに有効であることを示しました。また、気温差と実効再生産数とのタイムラグは地域によって異なることも確認しました。
コロナの発生から1年、私たちは基本に戻って「季節の変わり目には風邪をひきやすい」という基本原理を再確認することが重要であると考えます。日本は四季を有する国であり、今回のコロナの主要な感染拡大も、冬から春(第一波=三寒四温)、春から夏(第二波=梅雨冷え)、夏から秋(第三波=秋冷え)、秋から冬(第四波=冬将軍)といったように、マクロな季節変化に対応するように発生しています。
季節の変わり目というハザードを回避することはできませんが、意識して対峙することでリスクを軽減してうまく乗り切ることは可能であると考えます。注意喚起を軸とする対策を政府に強く望む次第です。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。