政府は今夕、緊急事態宣言を延長する見通しだ。日本経済新聞の世論調査では「すべて延長すべき」と「拡大地域では延長すべき」を合計すると90%が延長に賛成し、「解除すべきだ」は6%しかない。この強硬な世論のもとでは、政権基盤の弱ってきた菅政権が延長に踏み切るのも政治的にはやむをえない。
しかし延長には科学的根拠がない。次の図のように東京都の新規陽性者数は、発症日ベースで9人まで減っており、解除の基準となる「ステージ3」の毎日500人をはるかに下回る。
これは緊急事態宣言の効果で減ったのではなく、宣言前の1月4日がピークだった。発症日ベースの陽性者数は後から遡及して増えるが、確定した1月中旬までの数字だけを見ても、感染がピークアウトしたことは明らかだ。これは4月の緊急事態宣言と同じである。
開戦前夜のような強硬一辺倒の世論
このように世論は客観的データを見ないで「空気」で決まる。特に非常事態で不安や恐怖の強いときは、それを解消するために強硬な手段を求める。
この状況は1941年に似ている。当時も客観的データでは日米戦争に勝てないことは軍部も認識していたが、対米強硬論で近衛首相を突き上げた。近衛は政権を投げ出し、東條英機に大命が下った。
東條も本当は戦争したくなかったが、世論は圧倒的に強硬派で、それを受けて参謀本部と陸軍も強硬論で一致していた。海軍は消極的だったので、東條は嶋田海相に「無理だ」といわせようとしたが、嶋田は空気を読んで開戦論に転じてしまう。
軍部が国民を戦争に巻き込んだと教科書には書いてあるが、実際の歴史はその逆だった。圧倒的多数の国民は戦争を望み、軍部はその空気に乗ったのだ。
そして参謀本部が強硬論をとなえると新聞がそれを伝え、勇ましい記事に国民は喜んで強硬論が強まる…というポジティブ・フィードバックが発生し、12月8日の真珠湾攻撃を国民は熱狂的に支持した。そのとき世論調査があったら、99.9%が「日米開戦すべきだ」と答えただろう。
当時フィードバックを加速したのは新聞だったが、今はワイドショーである。共通しているのは、客観的データを見ないことと異論を許さないことだ。菅首相も東條と同じく、本当は延長したくないのだろうが、内閣支持率が30%を切りそうな情勢では、強硬派のコロナ分科会に従わざるをえない。
4月の緊急事態宣言も空振りだったが延長し、その後、批判を受けて2週間で打ち切った。今回もそうなるおそれが強い。今週には感染は収束し、延長の必要がないことは明らかになるだろう。せめて2月5日まで正式決定は延期すべきだ。