優秀な兵士と最悪の将校 - 池田信夫

2009年07月01日 10:21

先週の夏野さんの起業塾セミナーも、すごい盛り上がりでした。印象に残ったのは、「日本には実力がある。人も金も技術も十分あるのに実力が生かせない原因はたった一つ、決める経営者がいないからだ」という彼の話でした。昔から「日本軍の兵士は世界一優秀で勇敢なのに、将校は世界最悪だ」とよくいわれますが、私は両者はなのにではなくだからで結ばれていると思います。


日本の社員は上司が命令しなくても仕事を起案し、遅くまで残業してやり遂げる。この自発性の高さは、日本では当たり前ですが、海外のスタッフと一緒に仕事をすると、1から10までこっちが指示しないと動かない上に、できあがったものは使えない、といった経験をよくします。それに比べれば、日本の管理職の仕事は現場の仕事を調整するだけでいいので、人柄がいいだけでつとまる、というのが決めない経営者の多い一つの理由でしょう。

もう一つ、このような現場のモラールの高さを支えているのが、会社というコミュニティの中で自分が重要なメンバーだというプライドであり、仕事に手を抜くと同僚に見抜かれ、出世競争に負けるという緊張感です。日本の会社に競争がないというのは大きな間違いで、こういう意味での出世競争のインセンティブはきわめて強い。狭い国土で緊密な共同作業を続けてきた日本人には、仲間の手抜きがすぐわかるので、モラルハザードは起こりにくい。

このようにコミュニティ内の「自生的秩序」の安定性があまりにも強いと、複数の村を統率するリーダーはほとんど必要なく、村の間で起こった紛争を調整する「長老」がいればいいので、年功序列で十分です。「百姓一揆」も、領主の権力を転覆するための武装蜂起ではなく、現地の代官の悪政を殿様に訴え出るものでした。日本が繁栄した大きな原因は、このように異民族の侵略をほとんど経験しなかったため、コミュニティが成熟したからだと考えられています。

しかしこういう自律分散型の構造は、国家全体を防衛するシステムがないため、対外戦争には弱い。いいかえれば、日本人はよくも悪くも「戦争のへたな国民」なのです。だから日清・日露戦争のような滅亡寸前の帝国が相手なら何とかなるが、対米戦争のような本格的な戦争では、戦略も指揮系統もめちゃくちゃで、戦死者の半分以上が餓死という悲惨な結果になってしまう。

かつての世界市場での製造業の戦いは、欧米企業のまねをして現場の強さで戦えばよかったのですが、これからはITで武装したグローバル企業と、低賃金で闘いを挑んでくる新興国との二正面作戦を強いられます。今までのような戦略なき現場主義で経営者が何も決めないと、ゼロ戦や戦艦大和を無駄にした前の戦争のような結果になりかねません。

戦術の失敗は戦闘で補うことはできず、戦略の失敗は戦術で補うことはできない。
                                  ――『失敗の本質』

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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