小泉純一郎氏の教訓 - 池田信夫

2009年08月18日 16:48

TKY200908170211岡田さんもいうように、今やごく普通の国民にとっても、バラマキのありがたみより政府の借金の不安のほうが大きいでしょう。朝日新聞の世論調査でも、図のように子供手当や高速無料化などへの評価は否定的で、むしろ消費税の引き上げに対する評価がもっとも高い。政治家が思っているほど、有権者はバカではないのです。


同じようなことは、2001年に小泉純一郎氏が首相になったときも見られました。小渕内閣の巨額の財政政策によって、財政赤字が危機的な水準になったことに対して、「小さな政府」を掲げて緊縮財政を約束した小泉氏が国民の圧倒的な支持を受けたのは、バラマキの財源は結局、自分たちの払う税金だということを知っていたからです。子供手当だろうと景気対策だろうと、財政政策は本質的にはゼロサムの所得再分配にすぎない。それが富を増やす効果はないのです。

たぶん鳩山由紀夫氏は、これぐらいのロジックは知っているでしょう(麻生氏はどうか知りませんが)。しかし選挙のためにはバラマキがきく、と思い込んでいるのでしょう。ところが上の世論調査にもみられるように、むしろ増税のほうが支持を受ける。こうした現象は、1980年代に欧州各国が財政赤字とスタグフレーションに悩まされたとき、増税した国のほうが景気が回復したことで知られ、非ケインズ効果と呼ばれます。

際限なくバラマキを増やす政府は、のちのちそのツケを納税者に回してきますから、「一人あたり674万円」の借金はどこまで増えるかわからない。それに対して増税する政府による負担増は、彼らのいう範囲にとどまるので、少なくとも青天井ではないだけましです。人々が、まったく見当のつかない不確実性より、限界のはっきりしているリスクを好むことは、行動経済学の実験でも確かめられています。

この点からいうと、特に不確実性の高いのは民主党のマニフェストです。税収が46兆円の一般会計で、16兆円以上の歳出増を行なうことは不可能であり、破綻することは確実です。このような非現実的な政策を「無駄をなくす」だけで実現できるというマニフェストは、できなかったらどうするのか、また政権がひっくり返るのか、などの不確実性を増し、民主党への支持を低下させている疑いが強い。むしろ小泉氏のように「無駄の削減」だけをとなえたほうが高い支持を得られたと思います。

小泉改革は中途半端に終わりましたが、「自民党をぶっ壊す」という彼の公約は実現され、日本の政治は変わったのです。よくも悪くも、個別の利益誘導よりもメディアを使った「劇場型」のマーケティングのほうが有効になってきました。2007年の参院選で民主党が勝ったのも、バラマキのおかげではなく、「消えた年金」スキャンダルをメディアが徹底的にたたいたためです。それを「小沢神話」にして、彼の古い政治手法を続けたことが混乱の原因です。

選挙が終わったら、岡田幹事長もいうように「財源のめどが立たない歳出はしない」という原則を守り、まず無駄の削減から手をつけてほしいものです。いまだに小泉氏の人気が高いのは――彼自身がどこまで自覚的だったかどうかは別にして――こうした日本の政治の方向転換を先取りしていたからです。民主党も野党時代の意地を捨てて「小泉改革の継承」を打ち出せば、経済学者を含めて多くの人が応援するでしょう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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