国の借金額最大を報道しない理由 - 岡田克敏

岡田 克敏

 「財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」の総額が6月末時点で860兆2557億円になったと発表した。3月末に比べて13兆7587億円増え、過去最大額を更新した。税収減や経済対策に伴う借金が膨らんだため。7月1日時点の推計人口の1億2761万人で計算すると、1人あたりの借金は約674万円となった」(8/10 NIKKEI NET)

グーグルニュースで検索すると、主要紙のなかでこれを報道したのは日経、読売、産経で、報道しなかったのは朝日、毎日であったことがわかります。すべて見ていたわけではないので断定はできませんが、NHK総合テレビも報道しなかったものと思われます。


 小さな問題だと思われるかもしれませんが、メディアの認識を示すものと考えれば、その意味は小さくありません。財務省発表なので、朝日、毎日、NHKは知らなかったのではなく、知っていながら故意に報道しなかったものと考えられます。右寄りと言われる3社が報道し、左寄りとされる2社とNHKが無視したことは興味深いことです。

 財政の危機的状況を白日に晒すような報道は、バラマキを戦略の中心に置き、財源問題を曖昧にしている政党にとっては不利に働き、具体的な増税計画を示すような政党には有利に働きます。

 借金が最高額になったという発表は、ことの重大さを知らせるよい機会です。にもかかわらず無視した朝日、毎日、NHK(推定)は財政赤字の状況を国民に知らせることが重要とは考えていない、と推定できます。無視したのは、彼ら自身に財政が危機的状況にあるという認識が乏しいためなのか、あるいは他の政治的な理由のためかわかりません。どちらにせよ納得できるものではありません。報道した3社もその扱いは大きいとは言えず、危機という認識は薄いようです。

 02年、日本国債は格下げされ、先進国で最悪、ボツアナと同じ格付けになったことが話題になりました。「私の任期中には、消費税率を引き上げない」という小泉元首相の発言は03年です。この当時から増税の必要性が議論されていたことがわかります。その後、3代の首相が続いた09年まで税率は上げられませんでした。さらに、次の民主党ら3党の共通政策では今後4年間は消費税率を上げないとしていますから、その場合は13年までは現行のままとなります。結局、03年からすると、10年間も増税せず、借金を増やし続けることになりそうです。

 文芸春秋9月号に「16兆円マニフェストを検証する」という記事があります。そこに日本の財政状況を家計に例えたわかりやすい話があるので概要を紹介します。

 『父親の年収(税収)は460万円、配当や貯金の取り崩し(その他収入)90万円を繰り入れ、さらに330万円を借金し、合計880万円になった。家計の4割近くを借金で賄うだけでなく、過去の借金残高が5500万円、利子の支払いだけで200万が消える』

 極めて危機的な状態であることは明らかです。しかし、今この家で議論しているのは金を何に使おうかということばかりで、きちんとした借金返済の計画を考える気持ちもないようです。刹那を楽しみ、「あとは野となれ山となれ」と言わんばかりの態度と映ります。

 アルゼンチンのような破綻が起きなかったとしても、先送りは解決をより困難なものにし、将来世代の負担を増やします。そして家計の例で言えば病気をするゆとりもないわけで、不測の事態が起きたときの選択の幅は確実に狭くなります。

 国の借金が過去最大となったことを主要メディアの半分が無視し、他のメディアもたいして大きく取り上げないという事実は、濃淡はあるもののメディアが財政危機を深刻なものと認識していないことを示しています。日本の政府債務が先進国中最大になり、さらに悪化していく背景にはこのメディアの見識があると思われます。

 ドイツのメルケル首相は付加価値税(消費税)を16%から18%に上げることを選挙公約に掲げて政権を獲得しました。日本の公約は甘いものばかりと相場が決まっているので、両国の差に驚きます。GDPに対する政府債務残高比率が日本の1/3ほどの国で、国民が財政再建の方向を選択したことは注目に値すると思われます。

 ユーロ圏の財政規律に違反した状態という事情もあったようですが、少なくともドイツのメディアの見識が日本のメディアと同様であれば、増税が選択されることはなかったかもしれないと想像します。日本のポピュリズムを主導しているのは国民というより、むしろメディアではないかと思われます。

コメント

  1. アンチ巨人、アンチナベツネ より:

    岡田様は十分わかって書いていらっしゃるのでしょうが、マスメディアは気がついていないのではなく、わかっていて書かない確信犯です。少なくとも10数年前より同級生の複数の大蔵官僚は消費税アップが絶対不可欠と言ってました。拉致だって外務省の人は、ずっと前から北の仕業とわかっていますよ。彼らのうち誰かが信念を通そうとしてもメディアに叩かれ、政府も守ってくれず、下手したらクビになります。警察だって検察だってそうです。メディアの意向に逆らう正義は存在しません。日本経済が破綻してもメディアは小泉、竹中のせいにするでしょう。もうあきらめています。民主党政権になって、悪法が一気にとおり、治安も経済もこわれないと日本人は、気がつかないでしょう。それでも自分の生活さえ守られればいいと考える人が多いのでしょう。確かにこうなったら、自民党政権でジリジリ弱っていくより、一気に矛盾点が表面化したほうがいいのかしら、とさえ思います。知人の子供さんの結婚式で聞きましたが本当に中央官庁の希望学生が激減しているようです。医学部でも忙しい外科系は人気がありません。テレビ局は中高年を守るため採用を減らし、なおかつ別会社枠で採って若手の人件費を減らそうとしています。本当に見苦しいですね。

  2. seki289539 より:

    今回の選挙が与野党ともにバラマキ合戦になっていることは私も残念でなりません。これがもし景気が良いときであるならば、財政再建問題とそれに必要な増税の議論も大きな争点になり得たのかと思いますが、今は余りにタイミングが悪すぎたと思います。ドイツのメルケルの選挙も、世界的に景気が良かった2005年のことだったと思います。
    個人的には、バラマキの部分はお話にならないとしても、予算の総組み替えを行うなどの民主党の公約には期待しています。ゼロベースから一つ一つ予算を組み立て直して、歳出の無駄を徹底的になくしてもらいたい。おそらく自民党政権ではできないことだと思います。まずはそこから始めて、国家の歳出と歳入の枠組みの根本から制度設計をし直し、財政再建への道筋をつけて欲しいと思っています。

  3. courante1 より:

    アンチ巨人、アンチナベツネ 様
    アンチ巨人さんはマスコミに厳しいでね、おっしゃるような部分もあると思いますが、マスコミはそれほど一枚岩ではないとも考えられます。いろいろな立場の人がいるけれども、全体として迎合を優先しているというところではないでしょうか。

    東大の卒業生で官僚を目指す者が減少していることは数年前から話題になっていたと思います。代わりに人気のあったのが外資系の金融機関だそうで、これはリーマン以後様変わりしたそうです。

    seki289539 様

    たしかに「自民党政権が築き上げた借金の山を解消し、財政再建への道筋をつける」、を民主党の戦略にすればいいと思います。

    逆に財政問題は自民党の作ったものだからと、財政再建に消極的にならないことを願いたいものです。

  4. アンチ巨人、アンチナベツネ より:

    アゴラの執筆陣の方々の見識には、いつも敬服しておりますが、マスメディアに関してはやや甘いのでは、と感じております。自分は特にメディアの被害を直接こうむってはおりませんが、公人かどうかを問わず家族も含めて人生を変えられた方々もかなりおられます。政治家とか財界人とか社会的立場の高い人ほど本音を言いたくても、いえないことがあるような気がいたします。その結果、世論に迎合しすぎて誤った方向にすすんできたことが多々あるかと存じます。
    やや俗っぽいことで恐縮ですが、北野誠事件など思い出してください。大手メディアの既得権益に関することではメディアは一枚岩になります。新聞の特殊指定問題、放送法改正問題でもそうでした。一致団結して報道さえしませんから。大手マスコミのクロスオーナーシップ、電波の寡占が改まらない限り、絶対にわが国の大勢は変わらないのではと思います。こういうことを書くことさえ最近は恐ろしく感じます。

  5. syunnsuke より:

    岡田様、初めてコラムを拝見し、かつ初めてコメントします事をご容赦下さい。
    昨今のメディア(広告収入依存の民間TV局の報道姿勢の低下・別要件による報道自粛姿勢の著しいNHKの問題・記者クラブ入手情報への偏り等から)への信頼性に疑問を抱き、ネット上のコモンセンスやバランス思考を探す道程で立寄らせていただきました。
    ご意見興味深く読ませていただきました。有難うございます。

    本ご意見の主要テーマ=膨大な財政赤字について、以前より拭えない(開示された情報不透明さ故か未開示なのか?)素朴な疑問を解消出来ずにおります。
    それは、中央・地方合せ900兆になんなんとする財政赤字の内訳と、何故ここまで膨大に膨らませたかの原因と責任のあいまいさです。

    日本は、(諸紛争への間接的な関与は別にし)長く平時に在ったにも関わらず、且つ“極めて優秀な官僚”が采配していたにも関わらずです。

  6. hogeihantai より:

    巨額の国債を発行し続けられたのは預かり資産の殆どを国債で運用する郵便預金、簡保、農林中金等、政府の息が掛かった金融機関が買い続けたということもあるでしょうが、赤信号皆で渡れば怖くないという日本人独特の群衆心理もあるのでしょう。経済合理性では説明がつかない群衆心理は全てのバブルの発生原因ですから、国債のバブルも何時か分からないが破裂することは間違いないでしょう。

    アゴラの執筆者は記事をお書きになる場合、どの様なコメントが帰ってくるか何時も緊張しながら内容をお考えになっていると思いますが、新聞、テレビでは筆者と読者の間にこの様な双方向の関係が無く弛緩した報道姿勢になるのが避けられないのでしょう。私の出身大学の大学新聞を数年間購読させられ、内容に不満があったので読者の感想、意見を簡単にフィードバック出来る様、インターネット新聞に切り替えるべきだと何度も要望したのですが無視されたので購読を打ち切りました。一方通行の報道は楽でしょうが読者の疑問に答える事ができず、報道の質の向上も望めません。既存の新聞の役目は終わったと断言してもよいのでは。

  7. courante1 より:

    アンチ巨人、アンチナベツネ 様
    ご苦言、しっかりと承ります。
    メディアは共通の利害が絡むときは一枚岩になります。再販制度の特殊指定の廃止が検討されたときは政治力を使って阻止したと聞きます。

    インターネットに、既存メディアに対抗できる勢力が生まれることを望んでいます。

    syunnsuke様
    ようこそ、歓迎いたします。
    なぜここまで財政赤字を膨らませたか、難しい問題ですが、ひと言でいうと長期的な視野を欠くポピュリズムというところでしょうか。

  8. courante1 より:

    hogeihantai様
    もう一つの不確定要素は金利だと思います。10年ものの国債の利回りが1%台などで売れる状況がいつまでも続く保証はありません。

    政府の金利負担はすぐには増えませんが、既発債をもつ金融機関は評価損を抱えることになります。

    通信社と記者クラブに頼る新聞は存在理由が徐々になくなっていくでしょうね。

  9. キーン より:

    岡田さんは官庁のことは詳しくないようですが、
    財務省や自民党が消費税を上げようと画策しているのは、
    財政再建ではなく、彼らの権限を拡大するためです。

    例えば、財務省の天下り先は銀行だけでなく、道路や空港関係など
    他省庁の関係団体も見られますが、財務省が他省庁と予算折衝する際、
    「予算を認めるから天下りさせろ」と要求しているためです。
    財布が大きくなるほど、彼らの権限は大きくなるのです。

    財務省の姑息さは「総額表示制度」を見ても明らかでしょう。
    「代金+税」という表記を禁止することで、消費税を意識させまい
    という魂胆が見え見えです。官庁というのはそういう組織なんです。

    政府や官庁とデキている日経、読売、産経が財務省の大本営発表を報道し
    消費税をアップして、年金生活者やホームレスからも税金を徴収し、
    無駄な空港やダムには、相変わらず、多額の国税をつぎ込み続ける。
    岡田さんはそれで財政再建すると考えているのですか?

    朝日とか社民党とかを目の敵にされているようですが、
    目が曇って、政府や官僚に騙されてしまうのはどうかと思います。
    マスコミも、政党も、右左揃って自己の利益しか考えていませんよ。
    まあ、国民の多くは岡田さんのように騙されてるから仕方ないですが。

  10. jun_furuta より:

    国の借金 860兆円余に

    NHK2009
    8月11日 4時29分
    世界的な金融危機を受けて景気対策の財源を賄うために多額の国債を発行したことなどから国の借金の総額は、ことし6月末時点で過去最高の860兆円余りに達したことがわかりました。
    財務省は、国債や借り入れなどのいわゆる国の借金の残高について3か月ごとに公表しています。それによりますと、ことし6月末時点の国の借金の残高は、ことし3月末に比べて13兆7587億円増加し、過去最高の860兆2557億円に達しました。国民一人当たりに換算しますと、およそ674万円に上ります。これは、世界的な金融危機を受けて景気対策のために相次いで編成した補正予算の財源を賄ったり、景気の悪化に伴う税収の減少を補ったりするため多額の国債などを発行したことが主な要因です。財務省によりますと、国の借金の残高は、今年度末には、924兆円と初めて900兆円の大台を突破する見通しで、先進国の中でも最悪の財政状況の厳しさをあらためて裏付けました。

  11. ismaelx より:

    なぜ国や自治体の借金が増えたのか。

    池田先生の8月13日のグラフを見れば1990年代の初めの頃から借金が急増しています。
    これは結局、バブル後の不況を克服するために、公共事業を大幅に増やしたからだろうと思います。つまりは国が事業をやれば景気が良くなるというケインズ的な経済を信じていたためだろうと思います。

    ところが1990年代から今日にいたるGDP成長率の平均は1%にすぎず、公共事業をやれば景気がよくなるという説は大いに疑問符がつくわけです。

    事実を目にして、反省するのかというと、まるでそういう気配はありません。昨年からの政府支出の増加を経済対策、景気対策として報道しているのはマスコミで彼らがそういう報道をしている限り、経済政策は公共事業やその他の支出のことだと思われたままになります。

  12. ismaelx より:

    なぜマスコミが重要なのかというと、政治家の行動を変えられるのは国民だけで、その国民が今のままでいいんだと思っていたら、政治家のほうはそのままとなります。

    では、マスコミがなぜ自分たちの報道がおかしいとは思わないのか。それはたぶんマスコミというものが言いっぱなし集団だからでしょう。発言になんらの責任を持たないから、適当な思いつきしか言わなくなっているのです。

    もしマスコミに、それは経済対策になっていないのではないかと言えば、いや政府の発表だとヒラリと体をかわすでしょう。最近はマスコミの言うことを信じるのはバカげたことだと思ってます。

    しかしこのままでは、失われた10年が20年になり、30年と続くだけです。

  13. hisashi1128 より:

    >02年、日本国債は格下げされ、先進国で最悪、ボツアナと同じ格付けになったことが話題になりました

    近年は、Aa2まで引き上げられたという点にも言及したほうが良いのではないでしょうか。02年以降も順調に、国債の額は膨れ上がっていますが格付けは、逆に上がっている点を見れば、上記引用はあまり意味を成さないのではないかと思いますが、いかがでしょう?そもそも、サブプライムローン問題で、格付け会社は馬脚を顕しその信用は地に堕ちたわけですが・・・。

    >国の借金が過去最大
    これについては、産経あたりは取り上げていましたが、借金だけを取り上げても意味は無く、借金に対して資産はどれだけあるかということも併せて言及する必要があると思われます。更に、その借金が対内債務か、対外債務かという点も明確にしておくべきですね。でないと、日本とアルゼンチンを同列に語る人が出てきてしまいます。

  14. hisashi1128 より:

    >きちんとした借金返済の計画を考える気持ちもない
    過去の自民党の議論では政府紙幣の発行がありましたが、私はある程度景気が回復すれば、政府紙幣発行によるシニョリッジで国債を償還していくという方法もありだと思います。もちろんインフレとの兼ね合いも考える必要はありますが、今のようにデフレ真っ只中の日本でインフレを懸念するのはナンセンスだと思いますので。

    >GDPに対する政府債務残高比率が日本の1/3ほどの国で、
    >国民が財政再建の方向を選択したことは注目に値すると思われます

    債務残高はストックでGDPはフローですよね?その2つを同じまな板にのせて語るのはいかがなものかと思います。せめて年間の利払いとGDPで比べるべきでしょう。そもそもドイツの場合、日本のように政府が資金を1%台の超低金利で調達できるわけでもなく、輸出のGDPに占める割合が40%を超えており(日本は10%半ば)、かつマーストリヒト条約により年間の財政赤字をGDPの3%に収める必要があるといった特殊な事情があるわけで、日本との比較自体が無意味です。この世界不況で輸出が伸び悩んだ結果、GDPと税収の両方が悪化すれば、マーストリヒト条約の制限をあっさり突破してしまいますからね。財政再建に舵を切るのは当たり前の話です。