民主党のバラマキ公約は破棄すべきだ - 池田信夫

2009年10月17日 09:44

松本さんの記事は、経済学でいうと契約理論やゲーム理論で扱う問題です。マニフェストというのは政党が「選挙で勝ったら~をする」と約束する社会契約ですから、政権をとってその政策を実行しなかったら契約違反ですが、罰則がありません。こういう場合、前にも書いたように、約束を破ることが望ましい場合があります。


特に長期契約の場合には、約束してから実行するまでの間に状況が変わるなどの理由で、約束を破ったほうがお互いにとって望ましい場合があります。こういう場合には、再交渉を行なって契約を変更することがパレート効率的になります。ところがマニフェストが守られないことが事前にわかっていると、国民は選挙戦でどの党を選んでいいかわからないので、まじめに投票しない。

このように事後的には望ましい契約の変更(機会主義的な行動)が事前のインセンティブを低下させる問題を「不完備契約」といいます。これをコントロールするために企業が必要になる、というのが、今年ノーベル賞をもらったウィリアムソンの理論です。つまり契約を破った労働者を資本家が解雇するというメカニズムによって、契約の当事者にコミットメントを作り出すわけです。

しかしコミットメントが望ましくない場合もあります。両者ともに事後的に変更したほうがいいのなら、事前の契約を破棄して再交渉するメカニズムもありえます。「日本的取引慣行」と呼ばれるものがこれに相当し、たとえば石油製品や板ガラスなどは、1年間の取引が終わってから価格交渉を行なう慣行がありました。こっちは逆に、モラルハザードを引き起こすリスクが高い。自民党の無原則な政策は、これに相当するでしょう。

したがって契約を場当たり的に変更することは好ましくないが、一定の手続きを定めればよい。そのメカニズムとして有名なのが、マイケル・ジェンセンの企業買収の理論です。企業は労使間で多くの「暗黙の契約」を結んでいるために、事業からの撤退やリストラなどを行なうことがむずかしい。こういう場合、経営者を企業買収(特にLBO)で変更すれば、過去の経緯にとらわれないで事業の効率化ができます。LBOが「約束を破るメカニズム」だというのはジェンセンの言葉です。

こういう意図的な契約違反は、もちろん既存の利害関係者からは反発をまねきます。したがって約束を守るべきか破るべきかは場合によって異なりますが、一般的にいえば、漸進的変化をコントロールするには契約を履行するコミットメントが重要だが、大規模変化の必要な場合には、資本の論理で約束を破るメカニズムが有効です。後者が政治の場合は政権交代に相当します。

日本がいま直面している問題は、大規模変化によって約束を破ることでしょう。特に民主党の子ども手当や農業所得補償などの政策は、社会契約としてもナンセンスな選挙向けのポピュリズムで、守ってほしいと思っている国民も少ない。今のような大規模変化の時期には、過去の経緯はサンクコストとして無視し、バラマキ福祉の約束も破棄して「ゼロベース」で考え直すべきです。97兆円を超えた概算要求は、過去の経緯にこだわっていると危機が迫っていることを示しています。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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