世論調査のあり方を問う。 - 松本徹三

2009年11月30日 10:00

今年の6月に内閣府が行った「国民生活に関する世論調査」というものがあります。この調査は、全国の20歳以上の成年男女6,252人を対象に「政府に何をしてもらいたいか?」を問うたものです。

さて、その結果ですが、ベスト10は下記の通りです。


1位: 医療・年金などの社会保障構造改革(70.8%)
2位: 景気対策(62.5%)
3位: 高齢社会対策(58.1%)
4位: 雇用・労働問題(51.1%)
5位: 物価対策(38.6%)
6位: 自然環境の保護(34.2%)
7位: 少子化対策(32.3%)
8位: 教育改革 青少年対策(29.9%)
9位: 犯罪対策(29.6%)
10位: 税制改革(29.3%)

回答は、あらかじめ示された項目のうち、「特に政府に取り組んで欲しいと考えるもの」に印をつける形で求められたものらしく、一人で何項目を選んでもよいということにしたので、結果として、一人平均7.58項目が選ばれることになったようです。(回答された項目の%を合計すると758%になるので、このように推測されます。)回答者の男女別、年齢別、居住地域別の比率は、現実の人口構成比に従って決められたようですから、全体として、高齢者の比率が相当高くなっています。

用意された項目は全部で31項目で、11位以下は、「地域の活性化」「防衛・安全保障」「外交・国際協力」「生活環境の整備」「資源・エネルギー対策」「財政構造改革」と並び、逆に27位から31位までの下位の5項目には「金融システム改革」「科学技術の振興」「規制緩和などの経済構造改革」「男女共同参加社会の実現」「IT(情報通信技術)の振興」と並んでいます。(ついこの間まであれほど叫ばれていた「規制緩和」は最下位から3番目、「IT」はあえなく最下位です。)

この結果は、理解は出来ます。一般の人達の中から無作為に抽出された人達を対象にすれば、殆どの人が身近で分かりやすいものを選ぶでしょうから、「金融システム」とか、「科学技術」とか、「IT」とかの「一般人には関係ないと思われるもの」は、確率的に選ばれない可能性が高くなるのが当然です。「IT」に至っては、多くの人達は、「それって何? 何でそんなものが必要なの?」と思うでしょう。「IT」は目に見えないところで、生産性を上げる為に役立つものなのですから、これはやむを得ないことです。

どんな調査でも、何らかの参考にすべきものは含まれていますから、私は「この調査の意味がなかった」とは言いません。しかし、この調査結果がどのように使われるかは、若干気がかりです。民主党政権が、「国民が求めるものはこれだ」と言って、バラマキに拍車をかけることもありうるからです。

このような調査は、古代ローマの市民に、「あなた方が求めるものは何か?」と問いかけるのに似ています。民衆は「パンだ」「見世物だ」と叫ぶでしょう。誰も「元老院のあり方を変えるべきだ」とか、「国境の守備を傭兵に任せるのは危険だ」等とは言わないでしょう。「パン」や「見世物」を市民に与えるのには金がかかりますが、「その金をどうやって稼ぐのか」などという「面倒なこと」にも、一般市民は関心を示さないでしょう。

最近の調査では、経済不況で国家の税収は更に減り、今年度は37兆円の見込みとのことです。これに対し、現時点での国家の支出の見通しは95兆円です。何と、収入額に更に50%を上乗せした金額をも超える58兆円もの不足を、国家の借金で賄うしかない状況に追い詰められているのです。無駄使いをなくすための「事業仕分け」が、現在、一応は国民の喝采を浴びながら進行中ですが、ここで仮に数兆円の節約が実現したところで、焼け石に水です。そして、「来年になれば税収が飛躍的に大きくなる」という見込みも、未だ全く見えてはいません。

この状況は、父親がリストラにあい、収入が大幅に減ってしまったのに、あれこれせがむ子供達にいいところを見せたいので、「何でも買ってやるよ」と約束し、結果として家計の支出は大幅に増え、やむなく「子供の将来」を担保に、「人買いから高利の金を借りようとしている」父親の姿に似ています。子供達はそのことを知っているのでしょうか? 父親(政府)は、自分が子供達(国民)に対し、実はどれだけ非道なことをしようとしているのかを、ちゃんと意識しているのでしょうか?

そもそも、世論調査なるものは、聞き方次第で相当変わったニュアンスの結果が出るものです。今回の調査結果を一応何がしかの参考にするのは構わないとしても、内閣府は別途「別の聞き方をした世論調査」も行うべきです。もし内閣府では気が進まないのであれば、どこかの新聞社がやるべきでしょう。新聞社が「こういうことを試みないでもよい」という理由は、どこにも見当たりません。

この調査は下記のようなものであるべきです。

質問-1: あなたは、「今年度の国の税収の見込みが37兆円、これに対し、支出の見込みは、このままだとその倍をはるかに超える95兆円、従って58兆円の不足を生じ、これを借金の積み増しで賄わなくなるだろう」という事実を知っていますか? 答は、「はい」、「いいえ」、「不足が生じることは知っていたが、これほどの金額になるとは知らなかった」の中から選択してください。

質問-2 あなたは、「このままでよい」と思いますか? 又は「何とかして状況を変えなければならない」と思いますか?

質問-3: 「このままでよい」と答えた方への質問です。何故このままでよいと考えるかを次の中から選択してください。「既に国の借金は総額で既に864兆円にも上っているのだから、58兆円の追加など何と言うことはない。なるようになるさ。」「経済は今が最悪。そのうちに好転するはずだから、借金もそのうちに返済できると思う。」「日本には国の借金の規模に匹敵するほどの膨大な個人貯蓄残高があるのだから、最悪時はこれを巻き上げて、これで相殺すればよい。」「孫達は自分達より出来がよいだろうから、彼等が何とかしてくれるだろう。」その他…。

質問-4: 「何とかして状況を変えなければならない」と答えた方への質問です。どこをどう変えるかについて、次の中から選択してください。「何とかして税収を増やすように、あらゆる方策を考える。」「何とかして支出を抑えるべく、現在の政策を見直す。」「上記の双方を並行して行う。」その他…。 

質問-5: 「税収を増やすために有効と思われる方策」を次の中から選択してください。「……」「……」「……

質問‐6: 「現在の政策を見直す」場合の「優先度」(「どうしてもやるべきこと」は何で、「やめてもよい、または後回しにしてもよいもの」は何か)を示してください。

以上です。

質問‐3の選択肢は、不真面目なものになってしまいましたが、どうかお許し下さい。真面目に考えようとしても、どうしてもよい答えが見つからないのですから、どうしようもありません。これでも、過去に絶望的な経済危機に見舞われた中南米の某国で広がった次のようなジョークよりはマシでしょう。

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「この経済危機を乗り越えられると思うか」と問われた大統領は、こう答えた。「二つの可能性が考えられる。一つは、『ある日、マリア様が天から降りてきて、我々の借金をみんな払ってくださる』という可能性で、これはかなり現実的だ。もう一つの可能性は、あまり現実的ではないが、それでも一応の可能性としては残っている。『ある日突然、我々は人が変わったように真面目に働くようになり、働いて借金を返す。』」

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我々日本人にとっては、「或る日、阿弥陀様が天から降りてきて、借金を払ってくださる」という可能性はあまり現実的とは思えませんが、「我々が知恵を絞り、懸命に働いて借金を返す」という方の可能性は、かなり現実的に見えます。但し、その前に、我々は、先ず現実を正しく認識することが必要です。そして、為政者は、かつてアメリカのケネディー大統領が国民に訴えたように、次のように国民に訴えることが必要です。

「国があなた方に何をしてくれるかを考えるのではなく、あなた方が国の為に何が出来るかを考えてください。」

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