国債増発を伴う財政政策の問題点  -前田拓生

2009年12月12日 13:29

国債増発懸念を受け、国債利回りが上昇しました。この不景気時に金利上昇は問題です。まぁ現状、1.285%であり、びっくりするほどの高さではないことから、すぐに日本経済をさらに悪化させるということではありませんが、これ以上、財政拡大策を続けるのであれば、深刻な事態を招く可能性があります。


とはいえ、通常「国債」は当該国の通貨建てのみで発行している限り、デフォルト(利払い遅延や元本の償還が不能)リスクはありません。なぜなら、返済が滞る状態が予想される場合には、政府は「徴税権」を使って増税することにより、返済が可能になるからです。また、中央銀行と連携をすれば、たとえ中央銀行が直接国債を引き受けなくても、市場から中央銀行が国債を買い続けることで借り換えがスムーズに行えることになります。ただ一点、問題になるのは、政府債務残高が高まることによって当該国でクーデターが起こる可能性あれば、その時にはデフォルト・リスクが浮上します(しかしその点、先進国ではあまり考慮されることはありません)。このような理由から国債流通利回りは、当該国内において「リスクフリー(無リスク)レート」としても機能するのです。

にもかかわらず、国債利回りが上昇をしたり、格付けが引き下げられたりするのは、どういうことなのでしょうか。

確かに、邦貨建てで発行している限り、国債にはデフォルト・リスクは発生しないことになります(クーデターを除いて)。したがって、その意味では日本のように政府債務残高が歴史的にみて「高すぎる」からといっても、それだけの理由で「利回りが上昇する」ということにはならないはずです。しかし(何らかのリスクに伴う)国債利回りの上昇は、当該国にデフォルト・リスクがない場合でも、起こる可能性があるのです。

それが当該国の「通貨価値に対するリスクプレミアム」です。

現代社会において、先進国の「おカネ(当該国通貨)」には、そもそも何の保証も担保も設定されていません。「ある」のは「(国家的な)信用」だけですから、当該国の信用が低下すれば、通貨価値は減価してしまいます。そして、その通貨が減価すれば、当該通貨で建っている債券は為替差損が生じることになるので、誰もが「持ちたくない」と思うようになるのは「当たり前」といえます。

そのため、通貨自体が下落するような国の債券(国債)には、リスクプレミアム(上乗せ金利)が付くことになり、利回りが上昇することになるのです。つまり、国債のデフォルト・リスクに対するリスクプレミアムではなく、当該通貨に対する減価リスクが、国債を保有することに対するリスクになるので、それに対してリスクプレミアムが要求されると考えるのが正しいといえます。

さらに、「国債の増発」とはその裏で「通貨の増発」を意味します。通貨の「量」が増加すれば、当然、通貨の購買力(1単位のおカネでモノを買う力)が低下するため、通貨自体は減価するので、その点からも当該国通貨が売られることになります。そうすると上述の理由から当該国債に対するリスクプレミアムが要求さえることになります。ここで「通貨量の増加」が物価を押し上げるくらいに景気を刺激してくれればよいのですが、実際には、単に銀行部門に資金が滞留することも多く、そうなった場合には、いわゆるホームレスマネー(「利」だけを求めているため、帰るべきところを失ってしまったおカネ)となり、世界をさまようことになります。つまり、おカネが本国から出奔してしまうわけであり、当該国の景気を刺激することなく、通貨の減価だけをもたらすことになってしまいます。

このような現象を「キャリートレード」というのですが、日本でも「円キャリートレード」という事態により、円安が進み、日本国債の格付けも下げられたことは記憶に新しいところです(現状は「ドル・キャリートレード」が問題になっています)。

ここで「円安になるならそれも良いのでは」と考える人もいると思います。円安になれば、輸出企業に恩恵があり、外需拡大から景気の浮上が考えられると・・・。

確かに外需効果はあるかもしれませんが、それは世界経済が順調な場合であり、現時点では、外需そのものを期待できない状態にあります。

一方、日本はエネルギーも食物も工場製品における原材料も、多くを輸入によって賄っています。円安はこれら要素生産物の単価を押し上げることになってしまいます。景気低迷期における原材料価格の高騰は、すなわち「スタグフレーション」を招くので、中小企業等の経営を圧迫することになります。これは原油価格が140ドル/バーレルを超えた当時の日本の状態と同じです。

つまり、ここでの円安、特にドルにではなく、オーストラリアドルなどの資源国通貨に対する円安は、日本経済において恩恵よりも打撃になる可能性の方が高くなるわけです。

以上から、景気を浮上させるために国債増発を伴う財政政策を行えば、行うほど、円に対するリスクプレミアムからの金利上昇、および、悪い意味での円安を招き、一層、景気を悪化させる可能性が高まることになると思われます。

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