「需給ギャップ35兆円」という迷信 - 池田信夫

2010年02月24日 09:23

亀井静香氏からリフレ派まで、「景気対策」を求める人々がいつもいうのが「需給ギャップが35兆円もあるのだから、これを埋めるのが先だ」という話だが、これはマクロ経済学の概念を取り違えている。需給ギャップを解消することが唯一の目的なら、解決するのは簡単であり、本質的な問題はそんなところにはない。


マクロ経済政策は古くからイデオロギー論争の場だったが、「ケインジアン対マネタリスト」といった論争は、学問的には80年代に終結しており、現在では新しいコンセンサスというべきものが成立している。その主要な結論は

  • 経済変動を長期的な自然水準の変化と短期的な需給ギャップに分解して考える

  • 長期的な自然水準を決めるのはリアルな変数であり、貨幣は自然水準からの乖離を埋めるだけである
  • 需給ギャップの主要な原因はリアルな需要ショックであり、金融政策の主要な役割は物価上昇率のコントロールである

Mankiwの教科書を引用すると、需給ギャップは次のように分解できる:

需給ギャップ=貨幣的摩擦+需要ショック

日本の需給ギャップ-7%(2009年7~9月期)も、この2つの要因で考えることができる。Woodfordもいうように、需給ギャップのほとんどはリアルな需要ショックであり、金融政策によって補正できない。たとえば今回の経済危機で、昨年の日本の自動車輸出は46%減少したが、このギャップを金融政策で埋めることは不可能である。

だから需給ギャップを埋めることだけが目的なら、「100兆円の国債でバラマキ公共事業をやれ」という亀井氏の政策が正解である。池尾さんも指摘するように、ヘリコプターから現金を無限にばらまけば、インフレになることは明らかだ(これは金融政策ではなく財政政策)。問題は、そういうバラマキが資源配分のゆがみをまねき、かえって有害になるというトレードオフである。リフレ派は、こういうトレードオフに無頓着なのが特徴だ。

リフレ派は、まず需給ギャップを埋めてから構造改革をすればよいというが、なぜ「まず」なのか。需給ギャップが埋まるまで、生産性を引き上げる改革はできないのか。需給ギャップを埋めることは経済運営の唯一の問題でもなく、最優先の問題でもない。安定化政策と成長戦略は両方ともやらなければならないのだ。

だから突き詰めれば、問題はどういう政策の効果が大きいかである。デフレを止めるだけなら財政政策がベストだが、財政危機に瀕している日本でこれ以上バラマキ福祉をやったら、国債が暴落して破滅的な事態をまねく。他方、企業が貯蓄超過になっている(金を貸している)日本では、借り入れの金利やマネーストックを操作する金融政策の効果はほとんどない。したがって有効な経済政策は、リアルな生産性を高めて投資を促進する規制改革しか残されていない。

ところが民主党政権の行なっているのは、派遣労働を規制し、雇用調整助成金を拡大して労働市場を硬直化させ、労働生産性を低下させる政策ばかりだ。こうした規制強化は労働需要に負のショックを与え、日本経済をさらに停滞させるだろう。「需給ギャップ」ばかり問題にして生産性を無視することは、かえって不況を長期化させる結果になるのだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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