「共有経済」と「商業経済」は共存できるか - 『REMIX』

池田 信夫

★★★☆☆(評者)池田信夫

REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方
著者:ローレンス・レッシグ
販売元:翔泳社
発売日:2010-02-27
クチコミを見る


著者は著作権の過剰保護に反対する論客として有名だが、最近この戦いに区切りをつけたので、おそらく本書は彼が著作権について書いた最後の本になるだろう。内容は従来の彼の主張と同じで、これまでの本を読んだ読者が読む必要はあまりないが、読んだことのない読者にとっては著作権問題についてのまとめとして役立つだろう。

インターネットに代表される共有経済が拡大していることは事実だが、それだけで社会が維持できないことも明らかだ。極端な話、著作権を廃止したら、百億円かけた映画をすぐコピーしてDVDで売ることも可能になり、製作費は回収できなくなるだろう。かといって、今のようにテレビ番組をネット配信するとき、すべてのBGMに許諾が必要な状況は、コンテンツの活用を禁止的に困難にしている。

社会的に望ましい権利保護のあり方は、この両極端の中間の「ハイブリッド(折衷)経済」にあるというのが著者の答である。共有経済と商業経済をどう折衷するかについて明快な基準はないが、必要なのは著作者の権利を最大化することではなく、著作者とユーザーの利益を最大化することだ。そのためにはユーザーの創作活動を制約している著作権を今よりゆるやかなものにし、特にアマチュアによるコピーやファイル共有を取り締まりの対象にしない、といった法改正(あるいは運用上の工夫)が必要だろう。

しかし著作権法は、300年前に生まれてから一貫して強化され続けており、それを推進するロビー団体はハリウッドから新聞まで、きわめて強力なので、著者の提案するような改正が実現する可能性はない。彼はそういう状況に絶望して、このような既得権を代表する政治そのものを変える研究に方向転換した。しかしこれは一段と大きな問題なので、簡単に答が出ることは期待できない。むしろ変化は、中国や韓国など「所有権のドグマ」にとらわれていないアジア諸国から出てくるのではないだろうか。