「光の道」への疑問 - 池田信夫

2010年04月21日 01:31

きのう総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」が開かれ、原口総務相の提唱する「光の道」についての本格的な議論が始まった。私は、NTTの民営化のときNHK特集で取材して以来、25年にわたってこの問題を見てきたので、「また始まったのか」という感じだが、簡単に問題点をあげておく。


提案の中で注目されるのは、「『光の道』の実現に向けて」と題したソフトバンクの提案である。これは以前から同社の提案している「光ファイバー会社」をNTTから分離するという案で、2年前から情報通信政策フォーラムでも何度も議論したが、賛成する意見はほとんどなかった。

根本的な疑問は、なぜ「田舎や離島にも100%」光ファイバー(FTTH)が必要なのかということだ。FTTHは手段にすぎない。目的は高速アクセスなのだから、無線でもいいはずだ。現在の都市工学では、光ファイバーのようなインフラの高度化は、地方中核都市などの「コンパクト・シティ」に集中すべきだという考え方が主流で、都市開発投資の効率化をはからないと、アジアの都市間競争には生き残れない。

「無線には限界がある。LTEぐらいではFTTHにはかなわない」という意見もあるが、それは現在の40MHzぐらいのケチな周波数を前提にした話だろう。地デジの帯域を大幅に削減して300MHzぐらいの帯域が利用可能になれば、FTTHに匹敵する無線通信は不可能ではない。それに人々の求めているのは、電話網のような「100%の帯域保証」ではなく、インターネット的な「それなりに速くて安いbest effortのインフラ」である。

競争政策としても、90年代に世界各国で行なわれたアンバンドリング政策は、日本を除いて失敗した。「日本の奇蹟」が起こったのは、孫氏の天才的な起業家精神があったからだが、奇蹟が2度起こるとは限らない。競争としてもっとも望ましいのは、有線と無線のプラットフォーム競争であり、FCCは「500MHz開放」を最優先の課題としている。

ソフトバンクは、光ファイバー会社には「政府の補助はいらない」というが、NTTが2000万世帯でも採算の合わないFTTHが、全世帯のメタル回線をFTTHに強制的に交換するだけで100%(5000万世帯)で採算が合うとは考えにくい。特に経費の大部分は、規模の経済のきかない土木工事である。100%を実現するには、政府の補助金が必要になるだろう。

それに「光ファイバーはいらない」という人のインフラまで強制的に交換するには特別立法が必要で、これは財産権を侵害する憲法違反になるおそれが強い。それよりも山間部や離島のメタル回線は放置して電話交換機を撤去し、無線のIPネットワークに切り替えたほうが社会的コストははるかに低い。現に途上国のインフラ整備は、ほとんどが無線である。

25年間「NTT問題」とつきあってきた私としては、またあの不毛な論争が始まるのは、まっぴらごめんだ。それは何年も審議会やら調査会やらを繰り返したあげく何も決まらないのが関の山で、どう転んでも官僚が仕切る国営インフラにしかならない。NTTの「再々編」も、分離するならドコモを完全分離して東西会社とプラットフォーム競争をさせたほうがいい。

日本最大のイノベーターである孫正義氏が、なぜいまだに固定回線にこだわるのか理解できない。今後のブロードバンドの主役は無線であり、iPadにはイーサネットさえついていない。有線・無線の多様なブロードバンドが共存する時代には、FPUや地デジなどの業務用無線を全廃して、すべての帯域を汎用の無線ブロードバンドにせよ、という提案のほうがずっと後藤新平の精神に近いと思う。

なお、この問題についてのツイッター討論を行なっている。

追記:専門家には誤解の余地がないと思うが、ここで問題にしているのは終端まで光にするFTTH(fiber to the home)であり、き線点までのFTTC(fiber to the curb)を否定しているわけではない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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