パラグアイのオラシオ・カルテス大統領が7月11日から2日間の予定で台湾を訪問した。両国の国交樹立60周年を記念しての訪問である。
6月にパナマが中国と国交を樹立するために台湾と断交した後の今回のパラグアイ大統領の訪問は、台湾にとって待ち望まれた訪問であった。現在の台湾は世界で僅か20カ国としか国交を樹立しておらず、南米ではパラグアイが唯一台湾と国交を結んでいる国である。それ以外に、台湾と外交を結んでいる11カ国が中米とカリブ海に集中している。
先ず、日本人にとって知名度の低いパラグアイという国について少し触れねばならない。国土面積は日本より少し広く40万平方キロメートル、そこに僅か700万人が住んでいるだけで、首都のアスンシオンは人口53万人の都市である。
大豆の生産量は世界で6位、輸出量は世界4位である。牧畜業も盛んである。南米ではブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの4カ国が大豆と食肉を輸出の柱にしているという類似の構成になっている。
意外と知られていないのが大豆栽培における日本からの移民の活躍である。1930年代後半になると世界的に不況に襲われた。当時のブラジルでは外国からの移民の排斥も起きていた。そこで、当初ブラジルへの移民を予定していた日本からの移民は隣国のパラグアイに移住することを決めたのであった。日本からパラグアイへの最初の移民は1936年のことであった。
そして、パラグアイで大豆の栽培が盛んになる要因をつくったのは日本からの移民がイグアス移住地で始めた「不耕起栽培」によるものである。不耕起栽培とは土壌を耕すことなく種や苗を植えることである。
今回,台湾を訪問したカルテス大統領は2014年に日本を訪問している。
カルテス大統領の台湾訪問で最大の成果はパラグアイから輸入する商品の54品目の輸入関税が撤廃されたことである。この関税撤廃品目について、台湾はこれまで世界から17億8000万ドル(1960億円)相当の輸入を行っているが、同等品のパラグアイからの輸入は1600万ドル(17億6000万円)に留まっているだけだという。パラグアイが期待しているのはその10%を占めるようになることだとパラグアイの7月12日付の紙面『HOY』が言及した。
特に、冷凍食肉の輸出枠がこれまでの3552トンから10406トンに大幅に増加されたことで、台湾の国民はわが国の美味しい肉を賞味できるようになると同日の『LA NACION』紙が伝えた。
更に、今回のカルテス大統領の訪問に合わせて決まったのは両国の間で「入国ビザの廃止」。「パラグアイの学生が奨学金を支給されて台湾で勉強できること」が確認されたこと。そして、「中小企業の技術協力を促進させるためのメカニズムも合意」されたことである。
両国の国交樹立60周年を記念しての今回のカルテス大統領の訪問で、同氏は「この荘厳な儀式を前に、我が国民と我が政府は姉妹国中華民国(台湾)との関係を更に増大させて行く意思のあることを強調する次第である」と述べた。
大統領のこの発言は「一つの中国」を主張する中華人民共和国の外交姿勢に異を唱える表明でもある。
1971年に台湾が国連安保理の席を失った後も、中南米とカリブ海の国々は台湾との外交関係を維持していた。処が、2007年に中米のコスタリカが台湾と断交したのを皮切りに、少しづつラテンアメリカにおいて台湾の地位は揺らいで行くのであった。
しかし、中米ではニカラグアのように一度中国に靡いたが、1990年にまた台湾との国交を再開させて現在まで至っている場合もある。南米で唯一今も忠実に台湾と外交関係を維持しているのはパラグアイだけである。
中国相手だとパラグアイの南米における地政学的重みは僅かでしかない。しかし、台湾とであれば、パラグアイは南米を代表する国として存在感を示すことが出来る。実際に、パラグアイはメルコスル(南米南部共同市場)の加盟国であり、台湾はパラグアイを介してメルコスルに接近できる。それは、台湾企業にとって南米市場への投資の入り口ともなるのである。