イタリア人の“ドルチェ・ヴィータ” --- 長谷川 良

アゴラ

観光の町、ウィーン市内を歩いていると、元気な声が聞こえるのはイタリア人の旅行者たちからだ。彼らは観光が楽しいというより、生きているのが嬉しいのではないかと思うほどだ。それに反して、足早に黙々と歩く観光者はドイツ人旅行者が多い。ガイドブックを片手に持ちながら、次の名所に向かう。そこには無駄がない代わりに、イタリア人たちのような陽気さは感じられない。

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▲初老の男と小犬(2013年9月25日、ベルガモにて、撮影)


ウィーンに長く住んでいると、イタリア人やスペインといった南欧の明るさが恋しくなる。病弱のショパンが治療のために南国を求めたのも当然かもしれない。

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▲様々なピザを並べる店(2013年9月25日、ベルガモにて、撮影)

ローマ法王フランシスコは4月27日、ヨハネ23世とヨハネ・パウロ2世の列聖式後、「列聖式のために尽力をしてくれたベルガモ教区とクラクフ教区の関係者に感謝する「と述べた。ローマ法王の口から“ベルガモ”という言葉が飛び出した時、昔の友人を思い出したように、自然と笑みがこぼれてしまった(イタリア北部の小都市ベルガモ郊外には、今回聖人に列されたヨハネ23世の生誕地がある)。

当方は昨年9月、ベルガモを初めて訪れた。仕事で疲れるとベルガモの休日が思い出される。ベルガモでは本当にゆったりとした時間を満喫した。仕事らしいことは何もせず、友人家族と談笑しながら過ごした。仕事道具のラップトップは自宅に置いてきた。ポケットにメモ帳だけを入れ、デジカメをもってウィーンから飛んできた。リュックサック一つの旅だ。

ベルガモの町を友人に案内されながら見て回り、疲れたら近くの喫茶店やピザ専門店で食事し、休憩した。旧市内の細い石段を歩きながら、行き交う人々や店を覗いた。昼食に入ったピザ店では余りにも多くの種類のピザがあるのにビックリした。サラミ、ツナ、野菜、パイナップル、小魚など様々な食材を組み合したピザが並んでいる。隣には、ベルガモの典型的な甘菓子、ポレンタを売る店がある。

路上には犬が闊歩している。主人の歩くテンポを知っている犬たちは自由を満喫している。主人が疲れて休むと犬はじっと待っている。古い小さな飲み屋で腰を下ろして一休みしていた初老の男がいた。その足元には小犬が座っている。中世の絵画をみるような風景だ。当方はポケットからそっとデジカメを取り出し、シャッターを押した。小犬は当方の動作にまったく関心を払わない。どうぞ、勝手に撮影してください、といっているようだ。男は、と言えば、これまた微動だにしない。

ベルガモでは時間に追われるように、一つの名所から他の場所へと飛び歩く旅行者は少ない。ミラノから日帰りでベルガモを訪ねる旅行者が足早に過ぎていくが、多くはベルガモの時間に合わせて動く。

イタリア語にはドルチェ・ヴィータ(Dolce Vita)という言葉がある。直訳すれば「甘美な人生」といった意味だ。束縛されることなく、人生を楽しむイタリア人気質を表した言葉ともいわれる。ドイツ人とはまったく違うイタリア人の人生観、ドルチェ・ヴィータをベルガモの旅で発見した。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。