日本の原子力の現状
日本はエネルギー自給率が低く、 それを解決するために原子力及び高速増殖炉による核燃料サイクル 計画が立てられたが、福島第一原発事故やもんじゅの失敗により、 その先行きは暗い。 日本は高速増殖炉開発をフランスに相乗りする形で続ける方針だが 、そのフランスでも開発縮小が伝えられている。 高速増殖炉がなければウラン資源は限りあるエネルギーであり、 今後中国やインドが原発を増設すれば入手が難しくなる可能性もあ る。 原子力は準国産エネルギーとされているがウランは純輸入品であり 、 今のままでは反対運動がなかったとしても脱原発せざるを得ない。
海水ウランとは
一方で日本は海に囲まれた海洋国である。 海にはウランがわずかながら溶け込んでおり、 それを回収できればウランの枯渇の心配はなくなる。 海水ウランは使っても減らないと言われており、 事実上無尽蔵で再生可能エネルギーと言ってよい。 原子力は再生可能エネルギーの仲間入りができ、 純国産エネルギーの仲間入りもできる。 海水ウランが実用化できれば原子力は環境の点でも自給の点でも制 御性の点でも申し分ないエネルギーになることができる。 海水ウラン捕集の実験はすでに行われており、 実際にウラン抽出の実績もある。 技術的に可能であることは実証されている。
海水ウランの実情
ところが、 海水ウランは非常に薄いためその回収には多大のエネルギーが必要 で、 海水ウランを作って発電しても発電エネルギーが回収エネルギーを 下回るということが起こりうる。 例えば年間1200tのウランを回収する計算では沖合に係留した 167万本もの捕集材を使用する。 回収する船は1000 t 積み116隻が年間を通して稼働する。 船の燃料に重油を使うようだとそのエネルギーも必要、 コストも必要、CO2も出てしまう。 ウランを回収しても軽水炉で使うには精製、濃縮が必要である。 これらのエネルギーが発電エネルギーより大きければせっかく海水 ウランを回収してもエネルギーはかえって赤字だ。 これまで海水ウランのエネルギー収支の報告はなく実態は不明だが 、海水ウランがエネルギー源として役に立たない可能性は高い。
再生可能エネルギーはどうか
では、太陽光発電や風力発電などはどうか。 これらは再生可能エネルギーであり、 燃料費ゼロの純国産エネルギーであり、温暖化ガスも出さないし、 導入ポテンシャルも十分あり、 世界的にも望ましいエネルギーとされ日本でもFIT制度のもとで 導入が進んでいる。
ところが、 太陽光や風力などの変動性再エネは制御性がないので大量に導入す ると、発電するときは皆一斉に発電するので電力が余ってしまい、 発電しないときには皆一斉に発電しないので電力が不足する。 稼働率が20% 程度しかない再エネで十分な量のエネルギーを確保しようと思えば 時により最大需要の5倍発電してしまうこともある。 これを対策するためにEVやFCVの活用が提案されているが、 すべての車をEVにしてもすべてため込むのは無理であり、 ため込める電力量も限られる。 水素ならため込む量の制限はないが、 体積はかさばるし漏れやすく危険でもあり、 大量かつ長期の貯蔵性には難がある。 変動性の再エネがエネルギー供給の主体となったとき、 その変動性をいかに克服するかは難しい課題であり、 各国とも頭を悩ませている。
海水ウランの活用
そこで再び海水ウランが登場する。 海水ウランは回収や濃縮にエネルギーが必要だ。 そのエネルギーを回収したウランから得られなくても太陽光や風力 発電の余剰エネルギーを使えばウラン燃料はできる。 これは太陽光や風力の余剰エネルギーをウランに貯めていることに 相当する。ウランは非常にエネルギー密度の高い燃料だ。つまり、 どんなに太陽光や風力の余剰エネルギーがあってもウランにしてし まえばその貯蔵は楽なのだ。 しかも安定だから一度作ったウラン燃料は長期保存も可能。 いくらでも余裕のある揚水発電のようなものである。 今日の昼発電した電気を今日の夜使うというような用途には向いて いないが、 去年の再エネの余剰エネルギーを来年使うというような使い方が海 水ウランで可能になる。
再エネ社会の完成
こうしてできたウランは再生可能エネルギーであり、 純国産エネルギーであり、温暖化ガスフリーであり、 しかも制御性もよい、理想のエネルギー源になる。 再エネが余れば余るほど、ウランをため込むことができ、 それは日本のエネルギー安全保障を確かなものにする。 再エネは原子力を救うのだ。一方で太陽光、 風力などの変動問題を原子力が解決できる。 ウランというこの上なくエネルギー密度の高い蓄電池を活用するこ とにより再エネの導入制限もなくなる。 原子力で再エネも救われるのだ。
再エネと原子力の共存
福島事故から7年。 原発推進派と再エネ派は互いに反目しあっている。 その理由の一つに変動性の再エネと出力制御を行わない原発の共存 が難しいという側面がある。しかし、 海水ウランを活用することにより再エネの変動を海水ウランで吸収 出来る。同時にウランの枯渇問題を再エネが解決する。 変動性再エネと原子力はお互い必要不可欠な存在になる。 再エネが多くある方が余剰エネルギーも増えて原発の燃料がたくさ んできるし、原発の出力制御も50%程度は十分可能であり、 原発が十分あれば再エネの変動も原発の出力制御で解決できる。 原発か再エネかではなく、 両者ともお互いのためにお互いが増えることが有利になってくる。
原子力の環境整備
海水ウランの活用のためには原子力活用の環境が整っていなければ ならない。 海水ウランが活用できるなら原子力は未来永劫使えるエネルギー源 である。 その活用のためには未来永劫原発が受け入れられる社会環境が必要 だ。しかし現在の状況では原発の新設・ 増設は見込めない状況にあり、 原子力の活用ができる環境とは言い難い。
約一年前、 日本社会が原発を受け入れやすくするアイデアの一つとして「 根室原発特区構想」を提案した。 日本のすべての原発を根室に集中立地する提案だ。 これと海水ウラン活用を組み合わせれば日本のエネルギーは未来永 劫安泰だ。そうなる鍵は技術でなく社会にある。既存原発再稼働、 核燃料サイクルだけが原子力ではない。過去の路線は白紙に戻し、 未来に向けて社会が納得する原子力の姿を考えていくべきだろう。
参考資料
田代 克
会社役員・太陽光発電業個人事業主
会社役員・太陽光発電業個人事業主