野村不動産が、企画業務型の裁量労働制を、本来は企画の立案や情報分析などの業務に限って可能であるにもかかわらず、実際には営業担当の社員に対しても拡大して導入していたとして、東京労働局が2017年12月26日に同社に是正勧告と事業者の公表を行った。
当該労働者が過労自殺として同日労災認定されていたことが、3月4日に報じられた。
裁量労働制は、企画立案や研究職、弁護士などの士業など一定の職種に適用される。成果と労働時間のリンクが困難なことから、一定時間働いたと「みなす」という労働形態だ。ダイレクトに労働時間の適用除外としたわけではない。
ところが、労基法上の管理監督者になると、労働時間や休日の規定は完全に適用除外ということになる。
管理監督者の要件は、①経営者と一体的な立場で仕事をしている。②出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない。③その地位にふさわしい待遇がなされている。の3つと定められている。
以前、私が野村投信に勤務していたころ、「課長に昇格すると残業手当が付かない」と聞いて不思議な気分になった。男性社員の総数にすれば、次長の数が一番多くて平社員が少ないという頭でっかちの人員配置だったせいもあり、課長に昇格した人の仕事は平社員とほとんど同じだった。
定時前には出社しなければならず、終業時間が過ぎてからでないと帰宅できない。もちろん、経営者と一体的な立場などとんでもない、という状況だった。
給料やボーナスだけはグンと上がったようなので上記の③の要件だけは満たしていた。「管理監督者」であるか否かを巡って、時間外手当の不払いの是非が争われた事件は昔からたくさんある。
中でも「これは巧妙だな」と思ったのが、橘屋割増賃金請求事件だ(大阪地裁、昭和40.5.22)。
取締役工場長の肩書を有する社員が「自分は管理監督者じゃないから割増賃金(残業手当等)を支払えと請求した。
取締役は労働者ではなく株主の委任を受けた経営者なので「???」と思って内容を吟味したところ、①取締役に選任されたが、役員会にも招かれず、役員報酬も受け取っていなかった。②出退者についても一般労働者と同じ制限を受けていた。③工場長という肩書であったが形式的なものに過ぎず、工場の監督管理権はなかった。という理由で、管理監督者に該当しないと裁判所が判断したものだった。
そういえば、「この人って、名ばかり取締役じゃないの?」と思ってしまうような人もいたような覚えがある。
ホワイトカラーが増えた昨今、成果と労働時間をリンクするのは極めて困難になってきている。困難というよりも絶対無理と断言できるような職場も少なくない。
そういう職場では、成果に応じて賃金を決めるというのが「あるべき姿」だ。「同一労働同一賃金」ではなく「同一成果同一賃金」だ。
ところが、日本の職場では「各人の手持ちの仕事」がきっちり特定されていないため、「私の仕事は終わったので帰ります」ということが事実上できない。
「早く終わったのなら手伝えよ」というのが普通だ。
「どうせ速く終わらせても手伝わされて帰宅が遅くなる。ならばいっそ自分の仕事をゆっくりやろう」と考える従業員が多いのではないかと推測される。
裁量労働制を機能させるため、さらには将来的にホワイトカラーエグゼンプションを導入する前提として、該当者への仕事の割り振りを明確にしてそれ以外の仕事はさせないという明確な規範が必要になると考えている。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。