先月22日のBLOGOS記事『「転職回数の多い人」は本当にダメなの?』では、その冒頭『日本では一般に「転職回数が多いと、再転職に不利」だとされている。終身雇用・年功序列で発展してきたために、「飽きっぽい」「長く会社に貢献することができない」といった負のレッテルを貼られてしまう』と書かれています。
昨年7月創業15周年を迎えた私どもSBIでは、これまでグループの成長を支えてきたのは各種業界からの様々な転職者です。数からすれば新卒社員よりも中途の方が圧倒的に多く、私自身は基本「転職者大いに結構」というふうに考えています。特に新規事業立ち上げといった場合、学校を出たばかりの若者を雇ってスタートなどは中々出来るものではありません。やはりある程度の経験・知識を、他社で金を使い育てて貰ったような即戦力を採用するのが、一番手っ取り早い方法です。
我々が此の事業をスタートする丁度その頃、日本経済全体に思わしくない状況があり大銀行あるいは他の金融機関も経営的にしんどくなりました。日本長期信用銀行や日本債券信用銀行のように巨大バブル崩壊と共に潰れた所もあれば、外国資本に助けて貰わねば日興証券のように実質潰れたような所もあり、山一證券や北海道拓殖銀行などは疾うの昔に潰れたわけです。あるいは富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行など大銀行と言われていた銀行群が公的資金の注入無くして経営が立ち行かなくなり、規模拡大によってメガバンクへの統合再編が起こり支店の統廃合が為されるというタイミングでありました。バブル崩壊によって業界が非常に行き詰まった正にその時、私どもはそうした時代背景・経済状況の下で生み出された転職希望者を上手く吸収できた御陰でグループの急成長が現実のものとなったとも言えます。
米国などを考えてみても取り分け80年代というのは、日本の製造業にその地位を奪われたりロックフェラーセンター等の米国を象徴するようなものが日本企業に次々と買収されたりと、日本にこてんぱんに負かされるという状況で大変厳しい時代でした。こうして米国経済がガタガタになる中で大企業からベンチャー企業へと有能な多くの人がどんどんと移り次の90年代に、私ども同様この人材の流動化が原動力となってインターネットやバイオテクノロジーといった所謂「ポスト・インダストリアル・ソサエティ(脱工業化社会)」に相応しい新産業を育て得たという部分もあるでしょう。米国ならば放って置いても人材の流動化が起こるかと言えば、必ずしもそうではなかったかもしれません。私が見ている限りは寧ろ上記指摘した境涯がその実態を確かなものにしたという側面は否定し得ないと思います。従ってそういう意味では必ずしも常にというわけではありませんが、マクロの経済環境次第で大企業から中小企業あるいはベンチャーへの人材の流れが生じ易くなるというのは間違いないと思います。
私自身いまでも週に数回は中途の採用面接を行い、毎回必ず何人かを採用する状況です。他社を辞めて来る理由は人夫々であります。自分は能力があると思う一方で評価するのは他人ですから、現状自分として満足出来ない部分があるというケースも見られます。
では、その人に能力がないかと言うと、そんなことはありません。話を聞き採用後の働き振りを見ていますと、つまらない徒党の類が社内に蔓延っていたが故、会社の側がその人の能力をちゃんと活かし切れず、きちっとした評価が出来ていない状況があったのではないかと思われることも多々あります。此のサラリーマン社会では上司との人間関係あるいは派閥や徒党等による固定的状況に耐え兼ねて、能力が有りながら出世出来ないといったケースも多いのです。我々は、そういう人達を採用して正当な評価を下し活用して行くことが出来れば、大いに戦力になるというふうに一貫して考えてきました。嘗て内の役員を務められていた方が、「大企業で中々出世できなかった人がSBIで立派に人物を磨き成長しているのを見て、大企業の社員でいたよりも、また大企業の役員になるよりも遥かに良い人材に育っていますね」という意味のことを言われていましたが、そういう側面もまたあるのだろうと思っています。
私どもSBIは兎に角まだまだ急成長を持続して行かねばなりませんが、同時に片方では企業文化・企業風土ということを考えねばならない部分もあります。私はSBIホールディングス株式会社の経営理念の第一に『正しい倫理的価値観を持つ(「法律に触れないか」、「儲かるか」ではなく、それをすることが社会正義に照らして正しいかどうかを判断基準として事業を行う)』を掲げています。金太郎飴的な組織風土には良し悪し共にあるわけですが、当社グループは金太郎飴的というよりも多様化した人材の中に、例えば一つ倫理的価値観において貫かれているといったものを、内の風土とも言えるものにして行きたいと思っています。そしてそれを醸成すべく06年より新卒の新入社員を採用し、手間暇かけて一から教育して行くということもしているわけですが、之また確実に一つの企業風土を醸成する上で重要なプラスのファクターになっています。99年のグループ創業よりの中途社員を中心としてきたものに之がコンバインされることで、永続性を有した活力ある組織体が創造されてくるものと考えています。
ちなみに、最近では外国人の採用も積極的に行っています。例えば韓国ではソウル大学出身で、英語・日本語も流暢であっても就職口が無い人も結構います。従って我々は今、ソウル大学卒・高麗大学卒等々の非常に優秀な韓国人を新卒採用し、日本人が行きたがらないベトナムやカンボジア等に赴任して貰う、といった方法まで検討している位です。
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