朝日新聞が見た「調書」は初期ドラフトではないか

池田 信夫


和田氏が指摘するように、朝日新聞の報道には疑問が多い。第一報では「契約当時の文書と、国会議員らに開示した文書は起案日、決裁完了日、番号が同じで、ともに決裁印が押されている」と書いている。この「契約当時の文書」が朝日の見たもので、それが国会に開示された文書と違うというのだが、これはおかしい。

朝日は「1枚目に決裁の完了日や局幹部の決裁印が押され、2枚目以降に交渉経緯や取引の内容などが記されている」というが、文書番号や決裁印がついているのは1枚目の本文だけで、2枚目以降の「調書」には、決裁印も日付も番号もない。これは和田氏の出した写真でわかる。朝日の確認(撮影?)した2枚目以降の調書が、正式の決裁文書だという証拠はないのだ。

けさの続報で朝日が報じているのは、和田氏の見せた「予定価格の決定」の決裁文書とも違うようだが、「4.貸付契約までの経緯」があるのは同じだ。これは売買契約の調書の初期ドラフト(あるいはそれ以外の決裁文書の調書)で、最終的には貸付契約の経緯を削除したと考えれば説明がつく。

森友の土地は当初、貸付契約だったが、ゴミが大量に埋まっていることが判明して、2016年6月に売買契約に変更された。売買契約の決裁文書で貸付契約の経緯を削除するのはおかしくないし、別の文書(予定価格)にすでに記載されているので隠蔽にはならない。

逆に朝日が本物の売買契約の「原本」をもっていて、近畿財務局がそれを政治的な意図で改竄したとすると、郷原信郎氏も指摘するように「有印公文書変造の重大な犯罪」が成立する。原本は大阪地検がもっているのだから、起訴されたら確実に有罪になる。本件は近畿財務局がそんなリスクをおかすほどの事案ではない。

書き換えの内容も大した問題ではない。毎日新聞は1月に情報公開で入手した「別文書」(普通財産の処理方針の決定)に「本件の特殊性に鑑み」という表現があると報じているが、この特殊性とは「国有地の地中から大量のごみが見つかって新たな契約を結ぶことや、国がごみに関する責任を一切負わないとの特約」のことだろうと毎日は推定している。

朝日の確認した文書はこれとも違うので、売買契約のドラフト(決裁前の未定稿)だと思われるが、これに同じ文書番号と決裁印がついているという朝日の報道は疑問だ。この説明として考えられるのは、朝日が撮影したのは売買契約の本文に調書のドラフトを添付した文書ではないかということだ。本文のテンプレートは調書とは違うので、役所の中で調書のドラフトだけが流通することはありうる。

これは大阪地検に任意提出した売買契約の決裁文書とも違うはずなので、情報源は検察ではありえない(検察に出したのは国会に出したのと同じだろう)。昔のドラフトがどこかにまぎれこみ、それに内部告発者(?)が正式文書の表紙をつけて朝日に見せたのではないか。

根本的な疑問は、朝日が確認したという文書のコピーも写真も出てこないことだ。朝日としては取材源を秘匿するために見せないのだろうが、財務省もゴミになったドラフトまで、すべて洗い出すことはできない。電子ファイルは上書きされた可能性がある。

以上は私の推測にすぎないが、朝日の不可解な報道を矛盾なく説明できる。あとは朝日が撮影した写真を(それなりの配慮をして)提出するしか解決策はない。その際も、1枚目の本文と2枚目以降の調書が同じ決裁文書であることを証明する責任は朝日新聞にある。

追記:この推測は誤りだった。訂正記事を投稿した。