医療的デバイスとともに生きる、医療的ケア児。
彼らは就学年齢になると、多くは特別支援学校に行きます。
しかしここで大きな壁が。
親同伴の強制という壁
「親同伴」を迫られるのです。
約46%の家庭で、親同伴の通学が行われています。
医療的ケアはリスクが高いので、親がいなければいけない、という理屈です。
でもそれって、看護師さんを学校に配置すれば良い話だし、現状だと看護師が配置されていても親に同伴をお願いする学校もあるのです。
で、どうなるかというと、親、特に母親は仕事することもできず、毎日を学校での待機に使うことになるのです。
文科省若手官僚の熱意
野田聖子議員、荒井聰議員など超党派の議員が集まる「永田町こども未来会議」においてこの課題は何度も出され、議論しました。
学校といえば文科省。でも医療的ケアは厚労省マターだし。
こんな縦割りを崩そうと、一人の若き官僚が立ち上がりました。
森下平特別支援教育企画官です。
彼は関係各所を走り回り汗をかき、「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」という有識者会議を立ち上げ、親同伴問題を議論の俎上に乗っけたのでした。
しかし、中間取りまとめの直前に、森下企画官は異動になってしまったのでした。
ドラクエで例えると、さあこれからバラモス倒そうと思ったら、勇者がルイーダの酒場に連れて行かれちゃて、違うパーティーのところに割り振られたみたいなもんです。
最近不祥事続きの文科省ですが、ここでもかよ!と天を仰ぎそうになりました。
画期的だった中間とりまとめ
しかし結果として、中間取りまとめでは、これまでにない踏み込んだ内容が記載されることになりました。
まず画期的なのは、議論を特別支援学校に限定するのではなく、「すべての学校」にしたことです。
医療的ケア児は特別支援学校だけでなく、通常の学校に行く場合もあり、そういう時でも対応できるようにするんだぞ、と。特別支援学校じゃないからできません、じゃなくて。
ということです。
また、医療的ケアの中でも最も受け入れ難易度が高い「人工呼吸器」の管理も医療的ケアに含みますよ、と前提を置いたこと。
医ケア児を受け入れている特別支援学校でも、「呼吸器は別」という扱いをしがちで、そこはそうじゃないよ、と。
そして「保護者の付き添いに関しては、本人の自立を促す観点からも、真に必要と考えられる場合に限るように努めるべき」と明記されました。
これは大きな一歩です。これまでは「呼吸器がついていたら、基本的には付き添いです」というところから、「真に必要と考えられる場合」に限定されるので、付き添いが必要とされるケースは大きく減ることが予想されるでしょう。
また、これまでやや曖昧だった役割分担を整理し、医療的ケア指導医を明示したり、現場の医ケアを医療機関に委託するすることも可能ということになり、外部の訪問看護ステーションも使いやすくなるのではないでしょうか。
これからの課題
国の有識者会議で方向性が決まっても、学校の現場に降りて来た時には、換骨奪胎、結局何も変わりませんでした、というのはよくある話です。
そうならないよう、こうした大きな流れを学校関係者の皆さんに知って頂き、そして動いて頂きたいと思います。
また保護者の方々も、付き添いではない形を作っていけるように、こうした資料をもとに学校と話し合って頂きたいと思います。
まだまだ「方向性が示された」という段階ですが、このモメンタムを生かし、医ケア児だって普通に学校に通える社会を目指していきましょう。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年5月28日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。