フィンランド大使館で開かれた「Person centered care and treatment: Nordic approach」と題するセミナーに招待された。そこで講演された研究開発動向には国ごとに個性があり、興味深かった。
ノルウェー:高齢者の多くが老人ホームに居住する同国では、これらの高齢者が日常感じる「痛み」をどう緩和するかが課題だった。そこでMOBID(Mobilization-Observation-Behavior-Intensity-Dementia)という痛みの物差しを開発して、高齢者の訴えを客観的に評価できるようにした。痛みは薬で緩和するが、大量投入は避けなければならない。そこで、コミュニケーションや活動管理を併せることで痛みを緩和するプログラムCOSMOSを開発したそうだ。
スウェーデン:同国はeHealthに重点を置いている。処方の電子化、遠隔診断、健康診断のネット予約といった段階から始まり、医療画像からの癌の早期発見へのAI活用などにも取り組んでいる。過疎地に住む人々に対して遠隔医療サービスを提供するため、1500人の医療従事者がウェブカメラを用いて患者とビデオ通話する仕組みが、すでに動いているという。
フィンランド:高齢者への医療サービスをビジネスとして成立させるために、地域政府、医療機関、バイオ企業、情報通信系企業など多数のプレイヤーが協力する仕組みを構築中である。欧州では個人情報保護規制(GDPR)が発効したが、「2013年バイオバンク法」はGDPRを満たし、同様にGDPRを満たす「ゲノム新法」を2018年秋に成立させる予定だという。
デンマーク:心疾患を手術し退院した患者のリハビリのために、脈拍などの生体情報を遠隔モニターするシステムが動いている。同様の仕組みが慢性閉塞性肺疾患(COPD)やひざに人工関節を装着した患者の遠隔モニターにも利用されており、リハビリテーション効果が上がっているそうだ。
この発表の後、遠隔モニターの価値について議論した。自らの生体情報を「見える化」することで、たとえば脈拍を異常に高くする行動を控えるようになる。それが患者のリハビリに役立つ、というのが参加者の結論になった。
先般、記事「高齢者の自立生活支援への技術活用」をアップした。併せて読むと、高齢者の日常生活を支える技術開発が各国で進んでいる様子が読み取れるだろう。
山田 肇
『ドラえもん社会ワールド 情報に強くなろう』監修